中国武術

中国武術の名称の考察 ~カンフー 武術 技撃 国術~

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中国武術という名の武術は世間で様々な名称で呼ばれています。武術、国術、カンフー、中国拳法など様々な名前で呼ばれている中国武術ですが、これらの名前の背景にはどのような違いがあるのでしょうか。

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本日は中国武術をめぐる名称やその定義についての諸説について説明します。

中国武術の名称の数々とそれらが内包する概念

岩肌に建つ廟岩肌に建つ廟

中国武術は以下の名称で呼ばれることがあります。それぞれが持つ意味合いについて解説します。

武術

武術は武の術(武のじゅつ、すべ、技術)と言う意味合いで広く用いられる単語であり、意味の範囲も広く普及している言葉です。徒手、武器に限らす用いられ広い概念を持ちます。伝統武術、競技武術双方を含む概念でもあります。

国術

1928年に南京に中央国術館が設立された際、中国武術は「国術」と言う名称に統一されました。国術とは国画、国語、国技というように、国の粋たる技術という意味合いです。

大陸地区では国術と言う名称はすでに使われていませんが、台湾地区では現在も用いられており、国術とは伝統武術を指し、競技武術や台湾地区で俗に言われる「新武術(表演武術)」には当てはまらないものを指します。

紛らわしいことに台湾地区では中国伝統医学や療養術を施す診療所のようなところも国術館という看板を設けて診療を行っています。

国術は最近では「中国伝統武術」と言う表現に置き換えられつつありますが、現在も保守的で伝統的な練習を行う武術団体では国術という名称を使うことを好む場合があります。類似語に中華国術と言う名称もあります。

功夫

功夫とは、「費やした手間暇、時間」という意味であり、日本語で工夫するの「工夫」にもつながる概念です。つまりもともと功夫と中国武術との間には全く関連性はありません。手間暇をかけて修練するということがのちのち武術の事を言い合わらすことになったと思われます。

私の知見では、功夫をもって中国武術を指すことは、中国北方ではほとんど使われることはありません。よって功夫をもって中国武術とするのは、南方、特に広東の習慣ではないかと思います。

カンフー

外国でGongfu やKungfuと呼ばれるものです。現代北京語ではゴンフーという発音をします。広東語ではカンフーでしょうか。おそらく香港一帯から外国に紹介された南方の武術を外国人が発音から切り取ったということだと思います。河北や山東などの黄河流域の伝統武術をカンフーと表現する方を、私は未だに聞いたことはありません。

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技撃

技撃は中国武術の実用面について説明する言葉で、攻撃と防御について論じる概念です。中国武術の数ある実用性の中の一面として語られる実用性というのはまさに技撃性にあります。

中国武術の根幹は護身術、つまり技撃性ですのでこれを抽出して技撃=武術としたと思われます。

中国拳法

中国武術という名称が広く浸透していますが、東洋では中国拳法という言い回しも聞かれることがあります。これはつまり中国の拳法ということで武器を持たないで拳で殴り合うようなイメージを持った名称です。

中国人の感性では、剣は剣法、書は書法と表現しますが、武術について拳法と言う表現をすることは稀です。なぜなら拳法と言う名称からは、コブシを使った方法という印象しか受けることができないからです。

拳術

中国では武術を拳術という表現をすることはあります。こちらも中国拳法と同じく、武器術を含まない徒手格闘術としての印象が強くなる単語です。

武術太極拳

東洋では中国武術全般の競技武術を「武術太極拳」と名乗るところもあるようですが、中国大陸や台湾地区ではこのような名称は使われることは一切ありません。ネイティブが武術太極拳と聞くと、それは健康太極拳とは異なり、武術性のある太極拳の事であると認識するからです。

武術太極拳には太極拳と長拳と南拳の種目があるということを説明した時点で理解をしてもらえない状態になります。武術太極拳という名称は、「球技サッカー」や「水泳バタフライ」又は「武道相撲」のような概念です。

これは私だけかもしれませんが、「球技野球」という競技があり、その説明において「球技野球」には「野球」と「クリケット」と「ソフトボール」と言う種目があります、と説明を受けた場合、思考が停止してしまいます。

格闘技

格闘技とは素手で組み合ったり手足で打ちあったりする形式の競技です。ルールが明文化された武術由来の試合競技を指します。素手で撃ち合うことを考えれば中国武術も格闘技と言うか格闘術の一つであるとは言えます。

ですが伝統的な中国武術は相手を攻撃して勝利するということが目的と言うよりは、自分の体を防護する事を目的とした技術体系です。自分の体を防護するために相手を殺傷することを手段とする場合も考慮されてはいます。

武技

武技は武術の技術と言う意味です。技撃と類似した概念であり、攻撃と防御の技術という意味です。用法や攻防の技術に特化した概念で、芸術性や哲学的な概念は含まれない比較的即物的な概念と言えます。

武芸(武藝)

武芸とは、武術を藝術に昇華させた概念です。ただの攻撃と防御の技術と言う概念を超え、それを藝術にするという域に到達させようとする概念です。武術に限らず本来は実用性一辺倒の技術や物語を話す話術が藝術とされるのと同様の概念です。

例えば、陶器や磁器と言う実用品を製造する技術は、芸術性を帯びることにより陶芸と称され、また物語を滑稽に落ちをつけつつ演じての技巧で物語の世界を作る落語のことを人は伝統芸能の一種と認識しています。

徒手または武器を使った攻防技術を以て人を魅了する鑑賞性、哲学性、つよい嗜好性を帯びたものを武芸と呼びます。

Wushu

Wushu(ウーシュウ)とは、日本語で言うその「武術太極拳」という重複的で定義がよくわかりにくい競技名で呼ばれている競技の国際的な名称です。太極拳、長拳、南拳それに付随する器械を含めた武術の優劣を判定する競技の事です。

この名称は非常にわかりやすいものです。カタカナで表すと「ウーシュウ」となります。
柔道が国際的スポーツとして「Judo」として呼ばれたり、東南アジアの球技の「セパタクロー」武術や格闘技で言うと「シラット」や「エスクリマ」「クラヴ・マガ」がその原発音に即した発音で言われるのと同じことです。

ただし「Wushu」を日本語で感じに当てはめると「武術」となってしまい、日本の伝統武術との区分が読んだだけではわかりにくいこと、また、台湾地区では「Wushu」という国際競技は「新武術」という名称で武術会で知られており、伝統的な中国武術の概念ではない、競技のために成立発展したスポーツの一つであり、伝統武術とは別物という認識で通っています。

武道

武道は武術を人格形成のための修養の道として再構成した物であり、武術による人格形成教育を目指して考案された概念です。中国では武に道を付け加えて武道とすることは極めてまれです。

武術は技術体系であり、人格形成は儒学で修養の徳を身に着ければいいことから武術にこじつけることは不要であるとの考えがあります。中国において武の体系に「道」をくっつけることは今のところ聞いたことはありません。

武学

武学とは、武技をただの攻撃と防御の技術に留まらせず、これを学問、学術研究に値する領域まで高めようという概念です。これは私の提唱するものであり、私が主催する武術グループの名称を、「花垣武術研究会」ではなく、「花垣武学研究会」としたことの由来です。

人を叩いたり蹴ったり、人からの攻撃を躱したり防いだり、棒をもって振り回したり、飛んだり跳ねたりの研鑽はほかの専門の皆さんにお譲りし、私は武術を、中国人がやっているように一つの学術研究の領域にまで昇華させたいと思っています。

まとめ

中国の山々中国の山々

本日は中国武術の名称について、そしてその名称がもつ概念を解説しました。どのような名称を用いているかで、その方が持っているコンセプトは大体把握できます。

私は個人的に「武学」という名称に内容される意味合いと響きを好みますが、中国武術を練習する皆さんそれぞれが名乗る武術の名称について考えに浸っていただければと思います。

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