日本では新型コロナの蔓延でたくさんのイベントが注意しになっています。台湾地区ではコロナウイルスの感染拡大を一定程度に食い止めることに成功しており、ことしも様々な場所で伝統武術大会が開催されています。
本日は、伝統武術大会における審査基準についてお話しようと思います。
目次
伝統武術大会の前提
まずは伝統武術大会の組分けについて説明します。一般的な武術大会では、門派の系統により大まかに組を分類します。一般的な区分は以下の通りです。
- 北拳(査拳、八極拳、螳螂拳、劈掛拳)
- 太極拳(楊氏、陳氏等派を問わず)
- 内家拳(形意拳、八卦掌)
- 南拳(広東、福建等一括りです)
- 北拳 短兵器
- 北拳 長兵器
- 太極拳 短兵器
- 太極拳 長兵器
- 南拳 兵器
- その他の兵器
- 対打
- 団体
これらをさらに、性別、年齢で区分します。
- 小学生未満(男子及び女子)
- 小学校低学年(男子及び女子)
- 小学校高学年(男子及び女子)
- 中学生(男子及び女子)
- 高校生(男子及び女子)
- 大学及び高専(男子及び女子)
- 社会人 青年(男性及び女性)
- 社会人 壮年(男性及び女性)
- 社会人 老年(男性及び女性)
となります。
各グループは10数人または組で優劣をつけ、金メダル、銀メダル、銅メダルがもらえる仕組みです。よって大会出場者の3割程は何らかのメダルをもらえるようになっており武術の発揚とモチベージョンの維持に役立っています。
またいくつものの組にも重複申し込みもできます。北拳、北拳の短兵器、長兵器、内家拳、対打、など4,5種類ほど申し込む選手もいます。私も出場した際には3種目に申し込んで出場しました。出場時間帯が重複しないよう、スケジュールはある程度考慮されています。
伝統武術には、規定套路がなく、きまった門派、套路名称の規定もありません。よって好きな門派の好きな套路を好きなように演じることができることも特徴です。
(2024/11/21 18:28:09時点 Amazon調べ-詳細)
評価方法
伝統武術の表演大会の評価方法については、まず主審をリーダーとし、5人の審判員が套路の表現の優劣を点数で評価します。一般的には、一人目の選手の表現を見て、それを参考としながら次の選手は前の選手と比較して優れているか劣っているかという比較で評価する方法が多いようです。
審判員は10点満点の点数カードを提示し、記録係がパソコンに記録を記入します。点数は、偏差を排除するため最も低い点数と最も高い点数をはずし、中央の3人の点数の平均値を競います。
(2024/11/21 11:57:21時点 Amazon調べ-詳細)
評価の内容
それでは、伝統武術の表演大会における具体的な評価内容について説明します。評価の基準は以下の通りです。
姿勢、動作の正確であること
伝統武術にはそれぞれに正確な姿勢と動作の要求があります。この原則を守れているかを確認します。各門派にはそれぞれに要求される標準的な姿勢と動作の要求があり、審判員はこれらを把握したうえで様々な門派と套路が混在する中で客観公正な評価を下す必要があります。
形意、八卦や太極拳などは、門派が定められているためある程度の共通性がありますが、厄介なのは北拳です。北拳は、長拳、通背拳、螳螂拳、八極拳、劈掛拳、鷹爪拳、梅花拳、査拳、華拳、砲拳、翻子拳、少林拳、あるいは聞いたことのないようなマイナー拳種まで登場します。
これを客観公正に判定するわけですから、審判員には相当な中国伝統武術に対する見識と素養、経験と目利きが必要です。
門派独自の風格を出せているか
それぞれの門派にはそれぞれ独自の風格があり、それをしっかり表現できているかを見ます。例えば査拳なら査拳、少林拳なら少林拳、華拳、砲拳、長拳、それぞれをみるわけです。
リズム
リズムのことを中国語で節奏といいます。風格と重複するところがありますが、豊かな抑揚とリズム、躍動感が表現できるかを確認します。
勁力の表現
中国武術の本質は技撃の体系です。技撃ではけい力が重視されます。中国伝統武術の原則にのっとり、ただしくけいが発せられているかを確認します。ですから力んでしまい、力が滞っていたり、手打ちになっているようだと高い評価を得ることができません。
功夫
外見の姿勢等も重要ですが、よく練習しているかどうかという点で、功夫を審査します。
これを日本語で説明するのは非常に難しいですが「よく練りこんでいるか」を見ます。
勢
勢または勢子(Shizi)といういわゆる中から湧き出るオーラを確認します。日本の方は型枠にはめ込んだように形式(式子)を正確に作れる方が多くなっています。ですが、形式美の上に動作にはその精神が外に溢れ出したものとして中国人は「勢」を重視します。この勢を大会で思う存分表現することが大会に出場する醍醐味です。
動作を忘れたことがバレれば減点
練習不足で套路を打ち間違えたのがバレたり、途中で止まってしまった場合減点の対象になります。但し、伝統拳は規定の套路がないため、審判にばれないように修正したりすれば減点の対象にはなりません。
https://hanagakibugaku.com/?paged=19
ふさわしくない服装は減点
服装の規則は比較的自由ですが、伝統武術の表演にふさわしくない服装で大会に出場すると減点されます。武館指定のTシャツなども余りふさわしくありません。出来れば表演服を着るべきです。
コスプレのような奇抜なコスチューム、道士や僧侶の格好で演武をする選手もいますが
これについて加点はありません。むしろやりすぎは印象を悪くします。
靴が脱げたり、帯が解けたり、武器を落とすと減点
途中で靴が脱げて飛んで行ってしまったり、帯や服がはだけてしまうと減点の対象になります。また武器を落としたりするのも減点です。出場前はもう一度靴紐をしっかり結んでおきましょう。
難解動作には加点がある
難解動作には加点があります。ただしやりすぎは審判員の心象を害します。基本的には武術の優劣は「功夫」と「勢」で評価するものだからです。
審判員に求めらるスキル
中国武術の審判をするには、中国伝統武術の団体が認定する裁判員の講習に参加し、講習を終了する必要があります。台北市国術会、中華民国国術総会等幾つかの団体がこの講習を行っており、申し込めば参加できます。
審判員には、中国武術についての素養、見識、知識、経験、目利きが必要であり、また様々な門派に対する認識も必要です。そしてこれらを恣意的な意思を排除し、客観公平公正な目線で評価判定する技能が必要です。
自分が好きな門派、練っている門派や系統を依怙贔屓するようであれば伝統武術の審判員としては完全に失格です。
まとめ
本日は台湾地区における中国伝統武術大会の審判と評価制度について大まかな状況を説明しました。もし皆さんも興味があれば、日本の武術大会や台湾地区、中国大陸の武術大会に出場することをお勧めします。出場する機会がない場合は、見学だけでも意味があります。
私も学生時代は選手として何度か武術大会に出場したこともあります。時間があるときは台北地区の武術大会は見学にいっていました。師兄師姐が審判員をしていたこと、友人が学生を率いて武術大会に出場していたこともあり武術大会は武術の勉強には恰好の場です。
最近では日本地区の武術表演大会でも伝統拳の部が設けられる場合もあるようです。観戦するだけではなく、自分が参戦することが一番面白いし経験になります。見学だけでも行ってみることをお勧めします。
もっと本格的にやりたい方は、審判員の資格を取得し審判としての技能向上に努めてみてください。