ボクシング、キックボクシング、空手など、試合、スパーリング、組手がある、格闘技、武道では、右利きの場合、左手左足を前に構えるのが一般的です。ですが、中国武術では、右構えを基本とするスタンスを取ります。
結論から言うと、中国武術が右構えを多用することは、武器を取り扱う身体操作を徒手の攻防技巧に応用していることから生じています。本日はこれについて解説します。
目次
左手左足を前に構えるメリット
まずは左手左足を前に構えるメリットから解説します。
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防御力が高い
前面の左手に防御行動を集約できるため、攻撃手と防御手の分担が行いやすく、防御に有利です。
腰の入った利き腕ストレートを打てる
腰の入ったストレートパンチを利き腕で放つことができるため、極めの場で打撃力の高い一発を打つことができます。
肝臓の被弾回避
右のわき腹が後ろ側に位置するため、肝臓へのボディーブローと回し蹴りによる被弾を少なくできます。
一対一の徒手攻防技術としては左側を前にする構えは、相対的にかなり有利です。
左手左足を前に構えるデメリット
左手左前を前にするのにはデメリットも存在します。デメリットは以下の通りです。
心臓が前側に位置する
徒手ではそれほどのデメリットはありませんが、出血を伴う戦闘行為を行う際には、心臓に近い部位を前面にさらすことは、致命傷になる可能性が高まります。
利き手の射程距離が短くなる
利き手(右手)が後ろに位置するため、強力な打撃を打てる利き腕の射程距離が短くなります。
中国武術がそれでも右構えをする理由
徒手武術では、左側を前にして構えるほうが、相対的に有利です。右利きのボクシングの選手のほとんどが左手左足を前にして構えていることからそれが証明できます。ですが、中国武術はそれでも右構えを行います。理由は以下の通りです。
武器を扱う身体操作由来の身法
中国武術がそれでも右構えをする理由は、武器を扱う身体操作をそのまま徒手による攻防に応用し、運動神経の規格統一、練習体系の統合による効率化、及び、様々な状況を想定した場合の全体最適を考慮した結果です。
様々な状況とは以下の通りです。
味方 | 手 | 対 | 人数 | 手 |
一人 | 素手 | 対 | 一人 | 素手 |
一人 | 素手 | 対 | 一人 | 武器 |
一人 | 武器 | 対 | 一人 | 素手 |
一人 | 武器 | 対 | 一人 | 武器 |
一人 | 素手 | 対 | 複数 | 素手 |
一人 | 武器 | 対 | 複数 | 素手 |
一人 | 武器 | 対 | 複数 | 武器 |
複数 | 素手 | 対 | 一人 | 素手 |
複数 | 素手 | 対 | 複数 | 素手 |
複数 | 素手 | 対 | 一人 | 武器 |
複数 | 武器 | 対 | 複数 | 徒手 |
複数 | 武器 | 対 | 複数 | 武器 |
人間は、剣や匕首を持った状態では、その射程距離を最大化するため、右手を前に突き出します。同時に、被弾面積を最小化するため、強い半身になります。これは、フェンシングと同様の考え方です。
剣や道具を右手に持つ意味は、90%の人間が右利きであることと関係があります。余談となりますが、なぜ人間に右利きが多いのかはいくつかの説がありますが、有力な説は2つです。
- 右脳と左脳の機能分担が手の機能分担に表れている
- 心臓から遠い方の手を多用する右利きの人間が生き残り、右利き遺伝子が残った。
まとめ
中国文化は、書法でも剣法でも道理は同じく(剣法與書法道理相同)、右手に筆、剣持つことを前提に全体がデザインされています。多数派を占める右利きの人間に合わせて、社会構造を規格化することで、社会全体を最適化しようとした古代中国人の工夫がこれにも見られます。
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この記事を書くにあたり、山田英司氏の書籍の内容を参考にしています。この本には本稿と類似する内容が記載されております。一読の価値があると思います。