皆さんは劉邦配下の将軍である韓信をご存知でしょうか。韓信は中国で最も有名な軍略家の一人で、漢王朝の礎を築いた将軍の一人です。「韓信の股くぐり」という逸話で有名です。
本日は韓信の軍略、ではなく「韓信の股くぐり」を中心について解説します。
韓信の生い立ち
韓信は現在の江蘇省淮安市に生まれました。若いころは素行も悪く、貧乏で無頼の生活を送っていました。老女に数十日間食事を恵んでもらうという有様でした。韓信はその老女に、恩には必ず報いると言っていましたが、老女はそのような言葉には期待をしていませんでした。
韓信は、その後項梁と項羽に仕えましたがその進言が項羽に採用されることはありませんでした。秦滅亡後、韓信は劉邦の元へと移りました。韓信を兵站官となりますが、本人はあまり興味を示さず、韓信も逃亡を図ったことがあります。
それを知った蕭何は彼を慌てて追いかけ説得を行ない、蕭何は劉邦に対しても「あなたが漢中に留まるなら必要ないが、天下を摂ろうというのなら韓信は必要である」と話をし、これを聞いた劉邦は、韓信を抜擢し軍権を委ねることにしました。
韓信の躍進と絶頂
項羽と対峙し劣勢から体制を立て直した劉邦は、自らが項羽と対峙しつつ、韓信に諸国を平定させるという作戦を建てました。韓信はまず魏を滅ぼし、進んで代を占領し、趙にも進軍しました。その際には河を背にした所に布陣し、兵士たちを死力をもって戦わせながら別動隊が城塞を占拠し、それにより相手が動揺したところを打ち破りました。
韓信は趙兵の遺族を労ってから趙兵の遺族を燕に使者として送り、降伏を説かせました。これにより燕は戦わずして降伏しました。韓信は斉を平定後斉王となり、戦国七雄の斉の領地を領有しました。韓信はその後出身地の楚の王に転じ、若いころ飯を恵んでくれた老女に大金を与えたり、股をくぐりをした若者を中尉の役に取り立てました。
韓信の転落と最後
韓信はある日劉邦の不興を買い、兵権を持たない淮陰侯へと降格させられてしまいました。
陳豨という人物が鉅鹿郡守に任命された際、陳豨が韓信の邸宅を訪れました。韓信は陳豨に対し、劉邦への忠誠は無いことを言い放ち計を授けました。
劉邦の信任が厚い陳豨が謀反を起こせば劉邦が自身で打って出る。そこで空になった長安を韓信が制圧するというものです。韓信は、この機会に長安で反乱を起こしましたが、自分に恨みを持つ部下が呂后に密告し計画はとん挫し、最終的に蕭何におびき出され捉えられてしまいました。韓信は劉邦の帰還を待たずに処刑されました。
韓信の股くぐり
韓信には一つの有名な逸話があります。それがこのブログで紹介する「韓信の股くぐり」です。要旨は、志がある者は、小さな恥を耐え忍び争わないで受け流すのがよいということです。韓信が若いころ無頼に股の下をくぐらされる屈辱に耐え、後年に大成したという「史記―淮陰侯伝」によります。
韓信の股くぐりの逸話についてもう少し詳しく紹介します。
韓信は若いころ武術が好きで背中に大剣を背負っていました。ですが働きもせず老婆から食べ物を恵んでもらったりして生活しており皆から軽蔑されていました。ある日、韓信が市中で肉屋の前を歩いている時、彼がいつも身に着けている大拳を見た無頼から声を掛けられました。
「お前は背丈が高く、いつも剣を帯びているが、果たしてどれだけ強いのか」
「もし臆病者でないならその件で俺を刺してみろ、できないなら俺の股の下をくぐれ」
と挑発してきたのでした。韓信はこの若者を見つめ考えました。「この男を殺せば死刑に処される、この男の股をくぐれば公共の場で屈辱を味わう」しばらく考えた挙句、韓信は膝まづき、男の股の下をくぐりました。無頼や見物人は韓信を指さしながら声を出して笑ったと言います。
のちに劉邦軍の将となった韓信は、若者を呼び寄せ「あの時お前を殺しても何も得しなかった、だから耐え忍んだ。その結果として今の私がある」と言いました。
韓信は「恥は一時、志は一生」ということを冷静に判断していたのでした。これがのちに「韓信の股くぐり」として語られる逸話となりました。
「韓信の股くぐり」における中国武術家に対する啓示
韓信の股くぐりは中国武術家に素晴らしい啓示を示してくれます。
それは、人格や門派の尊厳を辱められたくらいで、いちいち癇癪を起こして人と衝突するなということです。そんなことをしても長い目線で見ては何も得られるものはありません。恥は一時、志は一生です。謙譲し引き下がり、争わない姿勢が重要であることを韓信は示してくれています。
まとめ
本日は韓信と「韓信の股くぐり」について解説しました。
漢子、大きな志をもって偉業をなすには、一時の恥や感情に流されてはだめです。たとえ人の股をくぐって世間の笑いものになろうが、人格や尊厳を否定されようなそんなこと如きで大きな利得を捨ててしまうことはあってはなりません。これは個人の人格の問題だけではなく、門派の尊厳も同じです。
人間は自分の状況を含めて長期視野で俯瞰し、人生の大いなる勝利者になるために、つまらないこと、くだらないことで笑われたり、辱めらたりでいちいち癇癪を起していると、まさに「人を至らせず、人に致される」人生に墜落します。
韓信の股くぐりからいろいろなことを考え、長いスパンの人生の充足について考えてみてください
本日のブログが皆様の参考になれば幸いです。