空手、格闘技、武道、武術、基本とする姿勢は様々です。その中で、上半身は立身中正(地面と直角にまっすぐ立つ)を保つべきか、前傾姿勢をとるべきか、という議論がよく交わされています。本日はこれについて、解説します。
目次
立身中正で立つメリット
先ずは立身中正で立つメリットについて説明します。
一人で起立する場合、重心が安定し上半身に無理な力がかからない
上半身の重心が体の真下にかかるため、一人で立つ場合安定します。
骨盤、腰のねじりを打撃の威力増強に使いやすい
体の軸が垂直にあり、肩、腰、骨盤を水平に回転させることができます。骨盤と腰のねじりを意識しやすく、それを打撃に伝えやすい姿勢です。
直突きの際、過剰な負荷を後ろに逃がしやすい
直突きをして過剰な負荷が腕、肩に発生した場合、その負荷を肩の後方に逃がしやすい形です。前傾姿勢の場合、力は後ろ脚の地面との接着点まで直線状に流れていきます。過剰な負荷がある場合、力の逃げ場がなく、もっとも脆い場所、例えば手首などに応力が集中します。
目線が安定し、狙いを定めやすい
目線を常に水平を保つことができるため、自分と相手との相対位置を確認しやすいです。
引っ張り込まれにくい
立身中正のスタンスをとっていた場合、手を掴まれても多少バランスを崩しにくいです。但し、前傾姿勢であっても重心を下げていればバランスは崩しにくく、立身中正を保つための絶対的な理由にはなりません。
(2024/11/21 10:18:41時点 Amazon調べ-詳細)
立身中正で立つデメリット
逆に立身中正のデメリットを解説します。
突きの射程距離が短い
突きの射程距離が腕の長さ分となり、前傾姿勢に比べ、射程距離に劣ります。
「一寸長、一寸強」(少しでも距離が長ければそれだけ強い)
正中線を狙われやすい
正中線が垂直を保つため、相手にとっては体の中心を狙いやすい立ち方となります。ボクシングや螳螂拳では、上半身を大きく動かし(ウェービング)、上半身への打撃の照準を難しくし、その動きを利用して攻撃を行います。
力のベクトル上、地面からの力を相手まで伝えにくい
地面を足で支え、地面を押し出す力を手に伝えるには不利です。中正での立ち方の場合、後ろ足は斜めに踏ん張っても、骨盤部で角度が一旦垂直になり、肩で90度曲がって力が相手に伝わっていきます。
よって、地面からのベクトルに角度が入ってしまい地面を蹴って生まれる威力が減衰します。ベクトルは、打撃の方向が直線に近いほど大きな力となりますので、この点では前傾姿勢の打撃の方が、ベクトルが地面からのベクトルが直線的となり効率的な力の伝達ができます。
人体生理学上は本来不自然
人間の体は、本能的には、常にやや前傾姿勢になりながら不安定な状態で前方に歩き続けることに最適化されており、静止した状態で起立を行うことを想定していません。ですから、生理的には、まっすぐに起立するということは不自然な状態です。
投げに向かない
中正を保つということは、自身のなかで重心が安定して完結することを意味しており、他者と重心の駆け引きを行う場合は使えない姿勢です。レスリングを例に挙げると、深い前傾姿勢をとります。相手に乗りかかったり、上から鉄槌をたたき込んだり、下に向けて押しつぶす動きを取る動作を、立身中正を取りながら行うことは難しいです。
まとめ
体をまっすぐに保つのが良いのか、体を傾けるのが良いのかは、条件によりさまざまに変わるため、優劣をつけらないと思っています。私は打(打突)、踢(蹴り)、摔(投げ) 拿(関節)、兵器(武器)、相手が複数+武器、という全局面を考えるため、上体は前傾姿勢を選択しています。
一つ、立身中正のデメリットを抑える方法があります。それは「斜中正」を採用するという方法です。これは、体は立身中正を保たずに、意識として立身中正を保つという状態です。現在の私にとって、これは姿勢の最適解だと思っています。形意拳でも「似正非正、似斜非斜」(正に似て正に非ず、斜めに似て斜めに非ず)が標準の立ち方となります。
つまり、体が斜めでも中正の意識を保っており、体が中正でも垂直にとらわれないことが重要だという認識です。
立身中正を保たずに、立身中正を保つことが重要です。
本日の記事が皆様の参考になれば幸いです。