中国武術

放鬆(ファンソン)の目的 ~中国武術のスタートライン~

ファンソンの目的

皆さんは、力を入れろ、力を抜け、緩めろ、締めろ、等力の入れ方、緩め方について言及されたことは無いでしょうか。中国武術では、放鬆(ファンソン)を重視します。ファンソンとは、力を抜くことですが、脱力することとは異なります。

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本日は、放鬆(ファンソン)について解説します。

放鬆(ファンソン)とは

中国の風景中国の風景

(ファンソン)とは、中国武術の独特の概念です。英語で「relax」と翻訳している方もおられますが厳密には異なる概念だと思います。中国語では、放鬆(ファンソン)の対義語は緊張(ジンジャン)です。緊張は、中国語では「張り詰めた状態」を意味しますのでその逆として、「緩んだ状態」が放鬆(ファンソン)の概念に近いです。

緩みつつ適度な張力を保った状態がファンソンといえます。

放鬆(ファンソン)の目的

中国の風景中国の風景

放鬆(ファンソン)について具体的に見ていきましょう

省エネ

放鬆(ファンソン)を行うことにより、待機状態での身体のエネルギーの消費を抑えることができます。筋肉に力が入った緊張状態は常にカロリーを消費しており、待機状態にもかかわらずエネルギーをどんどん消耗します。ファンソンを行うことにより、エネルギーロスを最小限に抑えることができます。

敏感度を上げる

ファンソンを行うことにより、外部からの刺激に対し敏感になれます。よって中国武術で言う相手の気配を察知する聴勁能力が向上します。

予備動作を小さくできる

人間は打撃を発する瞬間には、一瞬緊張をリセットしてファンソン状態を作り出してからしか行動を起こすことができません。筋肉が緊張状態を維持していれば、それを一度緩めなければ打撃の予備動作に移行できず、1モーションの動作が発生します。その結果、打撃に予備動作が生まれ、相手に攻撃を読まれやすくなります。

ファンソンが無意識にできていれば、その瞬間に打撃の予備姿勢は整っているため、そのから打撃を直接放てます。よって相手にとっては動きが非常に読みづらくなります。かめはめ波でいうと、かーめーはーめーの状態で待機可能です。

力の減衰を防ぐ

非常に大事なポイントです。中国武術に限らず、打撃の根本的力は、

  • 体重
  • 脚の裏と地面との摩擦
  • 足腰の押し出しと回転
  • 上半身の筋肉の伸長
  • 肩、腕の筋肉の伸長速度
  • 相手に衝撃を与えるというマインド

と強い相関があります。

ファンソンの反対である緊張とは、物理的には、筋肉の収縮です。例えばパンチという打撃は、筋肉の伸長と深い関係があるため、筋肉が緊張、つまり強張ると、伸長する力を妨げます。地面を蹴り、腰を切り、腰→肩→腕→拳にて伝わりながら増長されなければならない力が、筋肉の抵抗を経てどんどん減衰していくならば、話になりません。

ファンソンができていれば、足腰の力の力を減衰させるに手先まで伝えることができます。うまくすれば肩と腕が伸長する力も拳に乗せることができるでしょう。

真っ白の画用紙を用意する

中国武術をやるには、もともと持っている習性、依然に習った武術の習慣をリセットし、更地の状態から技術を組み立てる必要があります。そのためには、まずファンソン、ぐちゃぐちゃに書いてある前の絵柄を一回綺麗にしてもらわなければなりません。

ファンソンのデメリット

中国の風景中国の風景

ファンソンには以下のようなデメリットがあります。

手間がかかる

人間は、危険状態に陥った場合、外部からの衝撃から身を守るため、筋肉を収縮させ、体をコンパクトにまとめるという生理的習性があります。危険状態において、体に適度な緩みを保たせることは、この生理的習性と相反するものであす。脳がこれを後天的に否定し、修正するには、時間と手間がかかります。

防御力が下がる

ファンソンすると筋肉が緩んだ状態です。よってそこに打撃を衝撃が内部まで入ってきます。ファンソンした状態で打撃を受ける瞬間、攻撃を滑らせて威力を逸らしたり、意識をその場所に集中させ、局部的に筋肉を硬化させ、打撃を弾き返す、等の対策が必要となります。

これらは技術的な方法論であり、習得にはセンスと修練が必要です。胴体部であれば、筋肉という鎧を纏い、常に筋肉の硬化スイッチを入れ続けるほうが、胴体の防御に対しては有利です。

これについては実は賛否両論があります。胴体の筋肉を硬化させれば、拳、掌の打撃力を減衰させることはできても、刃物や突起物に対し、無力であるということです。

頭部、頸部、腋等硬化できる筋肉がない部位については、筋肉を固めて弾き返すという対策が実施できないため、中国武術では、技術的な方法論で打撃を回避する方法を選択したと思われます。

技撃性(戦闘技術)としてやるだけならファンソンは必須ではない

中国武術本来の奥ゆかしさ、高みを目指さず、ただ中国武術の技撃性だけを求めるという極めて低レベルな次元の技術を求めるだけならば、ファンソンは必須ではありません。ただその場合、中国武術を敢て選択して練習するという意味も同時に無くなります。

恵まれた体格を使って体重で敵を圧倒する(慎重190センチの筋肉質のプロレスラー体系の巨漢や、ラグビー選手がラリアットで相手をブチ倒す)のであれば、ファンソンは必須ではないです。

ファンソンができればスタートライン

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中国武術では、ファンソンは最終目標ではありません。中国武術の最終目標は「天人合一」です。ファンソンはスタートラインです。ファンソンができるようになるということは、これから中国武術を書いていくために真っ白で中立なホワイトボードが目の前に準備できた状態です。真っ白なホワイトボードが準備できた人はここに中国武術という名の芸術を描いていくことが始めることができます。

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まとめ

万里の長城万里の長城

上では、主に身体のフィジカルな部分(腕、胴、足)について放鬆(ファンソン)を説明しましたが、放鬆(ファンソン)という概念は、精神的な部分(精、気、神)にも及びます。メンタル的にも、緩んだ状態で且つ覚醒した状態がこれです。

この状態は、スポーツ科学では、アスリートが最大のパフォーマンスを発揮するとされる領域です。トップアスリートは、この覚醒した状態(ゾーンといいます)を試合中の出番に丁度良く発揮できる様、さまざまな工夫をしています。

ファンソンを理解し体現できることは、中国武術のスタートラインのみならず、近代スポーツのトップアスリートにとっても大いに助けになります。また驚くべきことに、中国人は近代スポーツのメンタルトレーニング、覚醒、ゾーンという概念が評価される少なくとも100年前には、このファンソンという概念を整理し、体系を確立しているということがわかります。

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