皆さんは台湾を題材にした小説は読んだことはありますか。
現在日本国は中華人民共和国と国交を結び、台湾の政府とは国交断絶状態にあります。台湾と日本は民間での交流は盛んですが、外交ルート上やNHKでは台湾地区の情報を見る機会は少ないと思います。
私が台湾に関する小説の中で特におすすめするのが馳星周の「夜光虫」です。
本日は馳星周の小説「夜光虫」について紹介します。
目次
夜光虫のストーリー
かつての神宮球場のヒーロー、ノーヒットノーランも達成した加倉昭彦は栄光に彩られた人生を送るはずだった。しかし肩の故障が彼を襲い、引退、会社経営の失敗、離婚、そして残った莫大な借金。彼は再起を図るため台湾に渡りプロ野球に身を投じた。
檳榔の吐き跡、排気ガスの臭い、腐れかけの果実、甘い芳香を放っている。
「日本人は八百長をしない」。だが台湾マフィアは巧妙に忍び寄り、とうとう彼も八百長に手を染めた。借金を返すために。そこには加倉を兄のように慕う俊郎がいた。彼が正義感故に加倉を守ろうと八百長を警察に通報したのが破滅への転落の始まりだった。
八百長を暴かれる恐怖、美しい俊郎の妻・麗芬、加倉に八百長を強いる黒社会の老闆。加倉は追いつめられ、同僚を八百長に引き込み、さらに追いつめられる。しらを切れ、ごまかせ、丸め込め。加倉は唱え続ける。
夜光虫で知ることができる台湾の情景
夜光虫を読むことでストーリー以外に様々な台湾の事を知ることができます。以下にいくつか例を挙げます。
台北の気候
夜光虫では夏の台北の夜の状況がよく出てきます。夏場の台北市の最低気温は28度です。湿度も高く外に出ているだけで汗が吹き出して止まらなくなります。日本でも梅雨明けからお盆まで夜は蒸し暑いですが、台北では5月ごろから9月ごろまでこのような気温が続きます。
ですから夏場に武術を練習するとズボンまで汗まみれです。足首のところまで汗が落ちてきて、蹴りを出すとズボンから汗が飛び散る、というのは実際私も体験したことです。
台北の繁華街
現在の台北の繁華街といえば、忠孝復興駅周辺や市政府駅から台北101ビルにかけての東区ですが、昔の台北市街は迪化街を中心とした大同区や万華区を中心としたエリアでした。
また日本人向けの飲み屋街は林森北路という道の界隈にあり、ここが夜光虫の物語の舞台になっています。万華の龍山寺の裏手の華西街夜市の裏道は今でも大人のおもちゃ屋や性病専門薬局や怪しいネオンの床屋がひしめき合って異様なムードを醸し出しています。
台北の住民
夜光虫では台北の住民について少し触れられています。夜光中に出てくる内湖と言う地域は一軒家が連なる住宅街で、そこに住む人はそこそこの資産家が多いです。
物語では触れられていませんが、台北市大安区は地価が最も高い地域、大同区は台北市内で台湾人の比率が最も多い地域、万華は昔からの地区もありますが、公共の集合住宅がある地域もあり、そこには栄民(大陸出身の退役軍人)や低所得者層が集まって住んでいます。家族帯同の外国人駐在員は天母地区に住んでいます。日本人学校やアメリカンスクールがあるからです。
台湾の住民構成
台湾社会は移民により成立している社会です。台湾地区に居住する人々のルーツには以下のようなものがあります。
台湾人
本省人の一角です。福建省南部から移住してきた人々、台湾で最大のエスニックグループです。台湾語(閩南話)を母語とします。台湾省全域に分布しています。台北市内では大同区が台湾人比率が最も高い区となります。
客家人
台湾人と同じく本省人の一角であり、広東省の梅州等から移住してきたグループです。母語は客家語ですが、祖先の出身地により若干の相違があります。台湾人よりも後の時代に移住してきたとされます。苗栗県や桃園県、新竹県に住んでいます。
外省人
1949年以降、蒋介石の国民政府とともに台湾省以外から渡ってきたグループです。山東省、江蘇省、浙江省、福建省、広東省等沿岸部からの移住者が多いですが、四川省や内陸部出身者もいます。東北三省からの移住者は歴史的背景から少ないです。
言語はその中国語及び出身地の方言を話します。以前は陸軍や空軍基地の近くの軍属居住区に集住していましたが、今は台北市、新北市、桃園市、基隆市や高雄市等都市部に住んでいます。歴史的背景から、軍人、教員、公務員が多い傾向があります。独り身で台湾に移住した国民政府軍の退役軍人(栄民)は日に日に少なくなっています。
原住民
台湾省には、台湾人、客家人、外省人以外に、漢人が台湾島に移住する前からそこに住んでいたマレー系民族の原住民がいます。台湾島の山地や東部、離島に多く住んでいます。もともとは平地にも住んでいましたが福建からの移住者と混血しています。
台湾の黒社会
外省掛と本省掛があります。外省掛とは大陸出身者が中心となって構成したグループ、本省掛とは地元系のグループです。
外省掛
外省掛は外省人が多く住む眷村で発展し、少数派である彼らの生存と権益確保のため団結し地元の人間と対抗しました。外省掛は古い幇派の伝統を受け継ぎ、警察や軍人や政府などの勢力と結託し組織性のある組織として発展しました。有名な外省掛は竹聯幇、四海幇があります。
本省掛
これとは反対に地元系の団体は本省掛と呼ばれます。多くは各地区の地元勢力です。本省掛で有名なものは天道盟、牛埔幇等です。
もともと台湾には地元の人間が勢力を張ってたわけですが、そこに1949年以降、大陸出身者が政府の権益とともに割り込んだという構造が有る以上、抗争が絶えませんでした。現在は、台湾の黒社会は中国大陸との結びつきを強めつつあると言います。
台北の日本人社会
台北に住んでいる駐在員はオフィス街の近くの高層マンションか、家族帯同の駐在員は日本人学校がある天母地区に住んでいます。日本人向けの料理屋や居酒屋、バーやスナックは林森北路付近に集中しており、そのあたりには夜のお店がたくさんあります。
日本人社会と言っても現地出向の公務員、メガバンクや総合商社の駐在員、グローバル企業、1部上場企業、その他上場企業、中小企業の駐在員、出張者、現地採用の日本人、現地でビジネスをしている人、正規留学性、語学留学性、日本語教師、様々な人がいます。それが様々な現地の利害関係者と関係を持ちながら生きています。
夜光虫の見どころ
夜光虫の見どころは、現代の台北の街、台湾人の生活、価値観、黒社会、台北に住む日本人、よくわかると思います。親日の方が多いという印象の台湾、ですが、普通のニュースでは語られない台湾の闇の部分、台北に流れ着いた日本人等彼らの現実がよく書かれています。
夜光虫のまとめ
本日は中国武術の話しではありませんが、馳星周の小説「夜光虫」を紹介しました。小説の舞台は台湾台北市、発行されてから20年近くたっているので台北の風景も少し変わってきているものの台湾の雰囲気を味わうにはもってこいの小説です。おすすめです。
この小説のジャンルは一応野球小説です。ですから野球が好きな人にも楽しんでいただけるのではないかと思います。
現代の台北を知りたいと言う方はぜひ一度読んでみてください。