スポーツや競技、武術で初心者と熟練者には体力以外に技術的な違いが明らかにわかることがあります。本日は初級者と上級者の違いを脳の試行配分から考察します。
バスケットボールでの参考例
バスケットボールで初心者と熟練者を比較した場合、初心者は、ドリブルやシュートと言った技術的な運動技能に対して多くのリソースを配分することがわかっています。以下のモデルを参照してください。
初心者は脳の70%を「ドリブルをすること」に費やしていることを現しています。70%をドリブルをすることに費やしてしまい、周りの状況把握や戦略策定には脳を30%しか配分できていないことを現しています。
では、熟練者は動作自体に習熟しているので脳の30%だけをドリブルに費やし、他の70%を周囲の状況把握、味方の位置、敵のポジション、戦略策定、等に使うことができます。結果は自ずから違うものになると思います。
武術の場合の参考例
中国武術での場合も同様のモデルが採用できます。初心者は姿勢、動作を意識するあまり、状況判断、戦況把握にかけるリソースが少なくなります。熟練者では、動作に習熟しているため、脳内の多くの空間を戦況判断、状況分析、戦略策定に回します。
現在の中国武術は、一人で套路を練り、その表現の優劣を競うまたは、一対一で技撃の技術を競うなどという方法で競技化されることもありますが、本来は、一対一から、複数対複数、徒手対徒手から武器対武器までを考慮に入れた全局面に対応するものです。全局面では、特に状況判断、戦略策定にどれだけのリソースを掛けられるかが生死を分けます。
人間は緊張下において、集中力が高まれば、視野狭窄を起こします。古い拳種では、全局面に対処すべきところで一か所に対して意識を向けすぎないように、片方の手を後ろに置くなどの工夫で、意識が360度にわたるように形を構築しています。
戦略思考、状況判断に多くを配分できるようにするには
戦略思考、状況判断に脳のリソースを多くを配分できるようにする方法はほぼ一つしかありません。それは反復練習です。中国武術に限りませんが、基本練習では、反復練習を徹底的に行い、まずは姿勢、形式を体に刷り込みます。
それが出来るようになったら、姿勢と姿勢をつなぐいわゆる過渡式(動作)をしっかり作ります。無意識に正確な動きができるようになれば、動き、姿勢を意識することは少なくなり、自由な思考の空間が広がります。
中国の伝統的な練習法
中国の伝統的な学習法は反復です。以前、私が台湾師範大学で中国語を勉強していた頃の中国語の老師は、70代後半の元アナウンサーの北京人でした。当時は、
- 「台湾国語は田舎の国語であり、我々北京人はこうは言わない」
- 「陳水扁は総統としての威光がない、蒋介石総統の頃の中華民国総統はそれは権威があったものだ」
という話を聞きながら授業を受けた記憶があります。この老師は「好,從這兒念一下兒,好了,念完了再念一編兒」と何度も教科書を読まされました。これが中国の伝統的な教授法なのかと思ったものです。
おそらく、科挙や郷試を受験するために、高額な教科書を購入し、家に家庭教師を招聘し勉学に励んだ地方の秀才は、四書五経を反復して読みながら一字一句を記憶したことでしょう。
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まとめ
中国武術を用いるには、変化無限、千変万化、戦略思考が求められます。ですが瞬時の状況判断および戦略思考を導き出すポイントは、どれだけ反復練習をして、体が反応できる状態を構築し、自由な思考ができる空間を脳内に作り出すかにあります。基本功は重要です。そして基本功に縛られてしまわないことも重要です。そして基本功は重要です。