中国武術を練習している皆さんは普段食生活にはどのような注意を払っていますか。
中国武術は運動そのものです。北派武術は動作が大きいことが特徴の全身運動ですので、あらゆるスポーツの中でも比較的大きなカロリーを消費する運動になります。そこで重視するべきはやはりスポーツ栄養学です。
以前「一生懸命練習してるんだけど、筋肉が強くなった気がしないし、どうしてだろう」という質問を私に投げかけてきた知人がいました。その方は確かに一生懸命練習していましたが、食事や栄養摂取の面を全く考慮しないかたでした。
中国武術の練習は技術を向上させるためにとても重要ですが、技術向上とともに強い体を作る「強身」という効果もあります。中国武術の強身効果を最大にするためには十分な栄養が含まれた食事をすることがとても大事です。
今回は、中国武術を練習するにあたってスポーツ栄養を学ぶ重要性を解説します。
目次
スポーツ栄養とは
スポーツ栄養とはアスリートが最大の能力を発揮したり、けがを予防し質の高いトレーニングが行えるようにするための食事の方法論です。近年になってやっと、オリンピック選手やプロスポーツ選手のようなトップアスリートがスポーツ栄養学に注目しこれを取り入れるようになってきました。
スポーツ栄養学では、アスリートのパフォーマンスを良好にするため、栄養学とスポーツ科学を駆使した理論をアスリート個人個人に合わせて調整し栄養管理をすることが試みられています。スポーツ栄養はスポーツや武術だけではなく、日常のあらゆるパフォーマンスを上げるために老若男女問わず参考にすべきものです。
スポーツ栄養を学ぶメリット
ここでは中国武術を嗜む方がスポーツ栄養を学ぶメリットについて解説します。スポーツ栄養を学ぶメリットは以下の通りです。
筋肉を増強できる
スポーツ栄養を学び武術に適切な食事の取り方、栄養の取り方を学びそれを実践することで筋肉を増強できます。筋肉の増強はすなわち筋力の増強につながり、それは武術の表現力の向上と技撃性の向上に直結します。
中国武術を上達させるには、意念や気の運用は非常に大事ですが、技や体も武術の両輪の片方です。そもそも現実的に動くのはフィジカル的な肉体です。まずはしっかりした実物の能力を高めなければ中国武術は成立しません。
疲労を軽減できる
スポーツ栄養を学んでそれを実践することでスポーツによる筋肉疲労を軽減することができます。運動後には筋肉はかなり損傷します。損傷時に適切な栄養を摂取するかしないかで疲労の回復の速度が変わってきます。
特に中国武術では臀部や大腿部にかかる負荷が大きく、前進の筋肉が疲労します。適切な栄養補給の方法を学べば疲労の回復を早め、疲労の蓄積を減少させることができます。これにより持続的で無理のないトレーニングができるようになります。
良いコンディションをキープできる
スポーツ栄養を学び、適切な栄養を摂取しながらトレーニングを行うことにより選手は良好なコンディションをキープしながら技術向上に励むことができます。
スポーツはカロリーを消耗するためたくさんの栄養素の補給が不可欠です。スポーツで消耗した体を適切な栄養補給により回復させコンディションを維持することはパフォーマンスの向上に大きく貢献します。
運動障害や不具合を防止できる
スポーツ栄養を学び、適切にかつ十分な栄養を摂取することで運動障害を防止できる場合があります。筋肉や靭帯はアミノ酸やコラーゲン、たんぱく質でできており、良質な栄養をバランス且つ十分に摂取している場合に最大のパフォーマンスが発揮でき尚且つ、十分な柔軟性や靭性が確保されます。
栄養が十分でなければ、体の組織は損傷しやすいといわれています。栄養状態のいい飼い犬や飼いネコは豊かで艶々した毛並みを持っておりとても健康的です。人間の体もこれと同じです。栄養はとても重要です。
塩分や糖分を含めた栄養を適切に摂取すれば、熱中症等も予防できます。適切な水分補給も含めた体調維持の維持管理のスキルは選手の伸びしろをアップさせるにも非常に大事な要素です。
集中力を上げ技術向上に寄与できる
栄養状態が行き渡った状態で練習をすると栄養状態がよくなく空腹の状態で練習した時に比べて覚醒し、集中力が上がります。それが技術向上に寄与します。スポーツ栄養を学ぶことは、人間の栄養状態が運動の効用与える影響をも認識することができます。
「腹が減っては戦はできぬ」と言いますがこれは事実です。人間の体は正直です。飢餓状態、栄養失調の状態では力は出ません。いくら「気合い」で解決しようとしても、日本軍はコヒマまで進出するもインパールを攻略することはできませんでした。またガダルカナル島は努力の甲斐なく最終的にはアメリカ軍に占領されてしまいました。
ベストな食事タイミングを知ることができる
スポーツ栄養を学ぶことで練習にベストな食事のタイミングを知ることができます。言い換えれると、食事の時間に対するベストな練習のタイミングを知ることができるということです。
中国人は食事はできるだけ時間をかけて食事し、食後30分は体を動かさず体をすこし横にしたり、体を休めるのが良いと言います。日本人は反対に、食事もできるだけ早く済ませ、「食べてすぐ寝たら牛になる」と言って横になることを戒めます。
実際に給食は全員食べ終わるまで誰も席を立ってはいけないとか、食べられなかったら掃除の時間に机と一緒に引きずられるとかしてゆっくり食べることに対して暗黙のプレッシャーをかけます。
スポーツ栄養的に、どちらに理があるのかは考えるまでもないことです。中国武術は中国人の生活そのものですので現地で伝統武術の老師から中国武術を学ぶと、中国人の生活習慣も同時に学ぶことができますが、日本武道ではこれらを学ぶ機会はあるでしょうか。
スポーツ栄養を学べば、中国伝統武術の老師から学べるようなスポーツ栄養の概念を、現代の科学的な見地から検証されたものとして学ぶことができます。
そしてアスリートの競技力向上に最適な食事のタイミングを知ることができます。
生命維持の仕組みがわかる
スポーツ栄養を学ぶことで人間の生命維持の仕組みがわかります。
指導者としてのスキルが上がる
スポーツインストラクターがスポーツ栄養を学びスポーツ栄養の概念も含めて選手を指導できるようになれば、指導者としてのスキルがアップしたことになります。
指導者はアスリートが最大のパフォーマンスを発揮できるように、最大の効率でトレーニングできる方法をアドバイスし、選手の疲労を効果に対して最小に抑える技能が必要です。これを達成するためにはスポーツ栄養を学ぶことは大きな助けになります。
中国武術家とスポーツ栄養
私は日本の伝統的武道を本格的に取り組んだことがないのであまりよくわかりません。中国武術では、武術は技撃のみならず養生や自治術までを包括した内容です。その中には食事についての要訣も含まれています。
中国武術では栄養価の高い食べ物を十分に食べることが奨励されます。中国北方において栄養価の高い食べ物といえば、「肉」です。たんぱく質を多く含んだ食事をおなか一杯食べましょう。清~民国時代の軍人であった袁世凱は、食事のたびに煮卵10個と大盛りのうどんを欠かさなかったという逸話もあるほどです。
十分な栄養、十分なたんぱく質が重要です。これが体づくりのもとになります。つまり中国武術上達には昔からこれを継続的に摂取できる環境が大事だったわけです。つまりは恵まれた経済的背景です。
話は栄養からは少し外れますが、中国武術を練ると体は消耗します。日常的に肉体的重労働を行うと体は労働だけで疲労を蓄積してしまい、中国武術の練習に支障が出ます。よって中国武術を大成するためには以下の三つの要素が重要です。
- 十分な栄養がとれる経済的環境
- 肉体労働に従事しなくてもよい労働環境
- 十分な余暇の時間
これらは今も昔も何も変わっていません。中国武術を大成したい方はこれらの3要素を手に入れるようにしてみてください。誰にでもできます。やり方もいろいろあります。
中国武術とスポーツ栄養についてのまとめ
今回は中国武術とスポーツ栄養について解説しました。中国武術は、ほかのスポーツと同様にその運動強度に見合った栄養と休息を取らなければなりません。
「腐ったキャベツの味の薄いスープと黒パン2枚×朝晩2回」、「おかゆと沢庵漬け2枚×朝晩2回」の食事では毎日12時間の激しい練習をしても、質のよいトレーニングはできず、必要な筋力を体に蓄えることはできません。
アスリートや選手にとっては体を動かすことだけが練習ではなく、食事、休息、練習の合間に行う体のケアまでもがトレーニングです。中国武術を練習する際にも練習に適した栄養補給ができているかを考えて練習してみてください。