中国武術を練習する際に、「意念」という言葉を聞いたことがある方も多いのではないのでしょうか。中国語の単語は音が短く、「意」と「念」という類似の漢字を二つつなげて一つの単語を作り上げることがよく行われます。本日は意念とその活用法について解説します。
中国武術の意念とは
中国武術で言う意念とは、日本語の意念、意識、などとほぼ同じ概念です。「イメージ」「マインド」も同じようなものと考えて頂いて差支えがないと思います。
- 「用意不用力,用勁不用力」(意を用いて力を用いず、勁を用いて力を用いず)
という言葉も良く使いますが、これは、筋肉に頼った稚拙な力(蛮力とも言います)頼らずイメージをうまく活用する事、精錬されたパワーを使うことを強調した表現です。意念をうまく活用すれば、中国武術の攻防技巧の効果を高めることができます。
意念を使ったマインドトリックの攻撃技術への活用
ここではマインドトリックを攻撃技術に活用する方法について解説します。
打撃の際、力を込める瞬間を頭でイメージするのとしないのでは感触が異なります。例えば、打撃で自分の拳が目標物に当る瞬間、その表面に意念を集中すれば、そこでパワーが弾けるイメージが出来上がります。
当る場所を目で見ることでそこに意念を導きやすくなります。拳が目標に吸い込まれるように向かっていきやすくなります。ただし表面をイメージすれば、目標物の内部まで意念が入っていきにくくもなります。
目標物の向こう側に意念を集中すると、打撃が目標物を貫くイメージが出来上がります。目標物の表面より向う側にイメージを持っていく方法です。
これを考えながら打撃をすれば、体がその目標位置を照準にして向かっていきますので、相手が後ろに押されて飛んで行きやすくなります。あるいは力が相手を突き抜けて貫通して行きます。貫通銃創です。あくまでイメージですが。実際にこのように考えるか考えないかで踏込み位置と重心の突っ込み具合が変わってくることはあるでしょう。
目標物の内部に意念を集中させ、そこで何かが爆発するようなイメージをもって打撃を行うと、拳握り込むタイミング、歯を食いしばるタイミング、息を吐くタイミング、腰を切るタイミング等が短時間の一点上に集中しやすくなり、体の協調性が向上します。
意識の焦点を目標物の内部に置く。そうするだけで、パワーの焦点は目標物の内部の一点に集まり、そこでパワーがバンッと弾け、「ングッ」となります。貫通させた榴弾を装甲の内部で破裂されるイメージです。
マインドトリックの防御技術への活用
上では、攻撃技術への意念の活用法を説明しましたが、防御技術への活用法も紹介します。
打撃を受けて耐えることはできるだけ避け、受け流せるに越したことはないですが、攻防技術や速度の如何によって、避けられない場合は存在します。打たれるのが避けられない場合は以下のようにしてみてください。
相手にロックオンされていると感じたら、そこを打たれる瞬間をイメージし意念を集中してください。そうすれば体全体が、そこに対して反発力を自然に作りだし、衝撃力を多少緩和してくれます。呼吸を吐く、ピンポイントで筋肉を固める、等が自然に起こります。
今回はわざわざ文字にして解説していますが、これらは誰でも当たり前のようにやっています。不意打ちを食らった場合と、予定調和で胸にパンチを食らった場合とで影響力が違うのがこれです。
もちろんこれらの防御方法は、素手の打撃の衝撃力を多少緩和させるだけの効果しかなく、相手が鍵を握りしめていたり、ボールペン一本でも握っていたら効果はほとんどなくなってしまいます。このような防御方法は積極的に活用するのではなく、あくまでも意念の使い方の応用として最後の手段として考えるのが妥当です。
まとめ
中国武術は、徒手武術のみの体系ではなく、冷兵器(火薬を使わない武器類)を含めたものの中に徒手技術が含まれるという技術体系ですので、徒手にのみ範囲を絞った練習方法は行いませんが、限られた体躯と体重という資源のなかで技術と戦術やソフト面を工夫することで少しでも優位に立つ方が体系的に研究されています。
キャッチボールで投げる目標をよく見るかどうか、サッカーでボールをける瞬間に足先にイメージを集中させるか、ゴルフのスイングでグラブがボールに当る瞬間に意識を集中するかどうか、狙ったところをイメージするかどうかで、何か違いがある、という経験は皆さんも多少なりともあると思います。
中国人はこのようなことを経験則として認識し、「用意」(yongyi)(意を用いよ)としてこれをコツのように取扱い、武術の練習に生かしています。