中国武術を練習(中国武術では修行という表現は不適当です)している皆さんは日頃どのようなものを召し上がっているでしょうか。中国武術は中国文化の中で重要な位置を占めるものでは決してありませんが、中国伝統文化の一部を担っています。
中国文化の一部を担う中国武術という概念を研究するに当たっては、同じく中国文化の一部を担う食文化を理解し、食し、愉しむことも大事だと考えます。
目次
中国武術は中国人の生活習慣の一部である
中国武術の本質は技撃(攻防)の術ですが、現在中国武術は護身術であるとともに健康増進のための運動、余暇活動としての地位も確立しています。またこれらがシームレスに結合していることも中国武術の特徴です。つまり中国武術を練る中国人にとって中国武術は技撃に留まらない生活習慣の一部となっています。
中国料理を食べることも中国人の生活習慣の一部である
中国武術が中国人の生活の一部にあるように、中国料理を食べることも中国人の生活習慣の一部です。地域の人間がどのようなものを食べるかは、地理条件、自然環境、歴史的背景、嗜好、文化と密接に関連しています。つまり食事はその地域の食文化ということができます。
中国文化を理解するには自身も中国の食文化を取り入れる必要がある
中国武術、つまり中国文化を理解するには、中国の食文化を自身が理解し、中国料理を食べることを自分の自然な生活習慣とすることが必要だというのが私の持論です。私が練習している山東武術を中心とする北方拳種を育んだ地域の食文化について私の知る限りを以下に解説します。
北方人の食文化
中国北方の食文化の概要(地域差があります)を説明します。
米をほとんど食べない
淮河以北では降水量の関係で一部の地域を除き、米を栽培するのには適していません。よって主食は小麦を中心としその他の穀物(粟、トウモロコシや高粱)となります。米を第一の主食と考える日本人とは異なります。
では北方人は何を食べているのかというと、マントウです。マントウは小麦粉をこねて重曹を入れて寝かしてから蒸篭でふかしたものです。これを手に持ってかじりながらおかずをのせて食べます。
トウモロコシは粉にして窩窩頭という饅頭にしたり、お粥にしたり、烤玉米餅(トウモロコシの粉を水で練って油で焼いたもの)なども食べられてます。
粟は粟ご飯にしたり、粟のお粥(小米粥)を食べます。小米粥は朝食の定番です。また朝食では油条(揚げパン)や餅(小麦のクレープ)も人気があります。
中国北方は麺食文化が盛んで、伸ばした麺(拉麵)や刀削麺、ちねった麺、なども食べられています。またハレの日には水餃子を食べる習慣もあります。
中国北方は寒い地方であり、小麦は米よりもカロリーが少なく消化が早いため、体を温めるためにも一食の量は多くなっています。これも北方の特色です。
火の通っていないものを敬遠する
中国人は火のとっていない食品を食べることを敬遠する傾向があります。もちろん果物、トマト、キュウリやネギなどの一部の野菜は生食します。古代には魚や肉を生で食べる「肉膾」「魚膾」という料理もありましたが現在は一部を除き食べられていません。
冷めた料理はたべない
調理後時間が経過し、冷めてしまった料理や冷たい料理を食べることを嫌がります。日本人が冷たい幕の内弁当を平気で食べているのをみると中国人は不思議そうな顔をします。中国人観光客には冷めた弁当は人気がないようです。
沿岸部を除き淡水魚が中心
中国文化は歴史的に大陸的であり、沿岸部を除き、あまり海産物に依存していません。魚、や甲殻類は淡水産がメインです。人気はレンギョとソウギョです。最近はアメリカザリガニの消費が増えています。
北方は羊肉が多い
豚肉、鶏肉、牛肉は普遍的に食べられますが、北方では羊肉の消費も多いです。また北方や西北では一定の割合で回族が居住しており、イスラム教の教義に則った食事も普遍的に存在します。
まとめ
「中国武術を理解するためには中華料理を食べればいいのかー」とは考えないでください。日本の中華料理は中華風であり、中国の北方人が食べている料理ではありません。八宝菜もエビチリも鶏のから揚げも、焼き餃子も、中華丼も天津飯も台湾ラーメンも中国北方で眼にしたことは一度もありません。
中華風では中国北方人の食文化を理解したことにはならない
私は、中国武術を大成するには、中国武術に関するもののみならず食文化を含めた生活スタイル全般を理解し自身の生活に取り入れなければ、中国の武術文化を理解することはできないと断言します。
中国料理をたくさん食べて力をつけ、漬物と白米、冷たい料理や生魚(なまざかな)を食べているライバルに差を付けようー。