日本には体を鍛えることに熱心な方がいらっしゃいます。中国武術を練習する際、体力や技量に合わない器具を使用したりはしていないでしょうか。重い武器や器具を持てばもつほどトレーニングになり、強くなる。私はこの考えには否定的です。
中国武術では確かにウェイトトレーニングの一種と認識し、武器を以て筋力をつけるとともに、「功」という物を練るものとします。ですが、使用する武器や器具の重さや負荷は適度なものとすべきです。本日はこれについて解説します。
目次
過剰な重さ、負荷の武器を使うデメリット
過剰な重さ、負荷の武器を使うデメリットは以下の通りです。
重い物を振り回すことが目的になる
重い武器や負荷を高めるための器具を使うことは、筋力の底上げを狙ったり、操作上の負荷に耐えられるための筋骨を付けることが目的です。基本功で練り上げる基礎的構造力を「功夫底子」とも言います。重い物を振り回し、それをやることによる疲労感を得ることが目的ではありません。
姿勢、動作が乱れやすい
自分が耐えうる重さを越えた器材を使うことは、正しい姿勢、動作を乱す原因の一つになります。筋肉や骨格が重すぎる武器に耐えられず、それをかばおうとフォームが乱れることはあってはなりません。
オーバートレーニング、故障の原因となる
重すぎる武器は局部的に大きな負荷をかけるため、耐性がついていない状態でそのようなものを取り扱えば運動障害を引き起こす確率が高くなり、効用が下がります。またオーバートレーニングも誘発しやすくなります。
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器材の重さ、負荷は、適切であるべき
重すぎる武器や器具について言及しましたが、技撃性を無視した軽すぎる武器や器材を使うことにもデメリットがあります。軽すぎる武器を扱うことに慣れてしまえば、体はそれを普通と認識してしまいます。文人や兵ではない将官が佩する剣は、重い武器を受け止めるだけの堅牢性はありませんが、肉を突き通しても曲らないだけの靱性は持っています。
また、槍杆も同様に槍頭で肉を着き通せるだけの剛性がなければなりません。
運動強度、負荷は人により様々
武器や機材の重さ、長さは、練習者の体格、程度、技術に於いて、個人個人にあわせたものを当てがうべきであり一律〇kgを使用すべき、という決まりは人間を規定に当てはめてしまうことになります。武術は生き物です。「武術是活著」固定した規格に当てはめてしまうべきではありません。
昔の中国の人は重い物を持っていたのか
白髪三千丈というを御存じでしょうか。白髪三千丈とは、唐代の詩人・李白の五言絶句「秋浦歌」第十五首の冒頭の一句であり、「縁愁似箇長(うれいによりてかくのごとくながし)」と続き、通常、「積もる愁いに伸びた白髪の長さは、三千丈(約9キロメートル)もあるかのように思われる」と解釈されるものです。
日本では、この一句のみを取り出して、中国の極端な誇張表現の例だとして、批判的に用いることが多いようです。
例えば、後漢末期の武将、関羽雲長が持っていたと言われる青龍偃月刀は、82斤あったとされています。1斤の単位は時代により変わり、82斤は後漢末の度量衡で現代の18キロに相当します。実物が存在しない状況では想像するしかありませんが、18キロの武器を振り回すには相当な腕力が必要です。
誇張が入っていると思います。私自身の見解です。そんなことは無い、という方もいると思いますが、それを主張される方も私と同じく現物を見たことはありません。
同時代の人物の特徴で言えば、例えば劉備玄徳の手は膝まで届いたと表現されることがありますが、これでさえ実際にはおそらく、膝まで手が届くほどでだった、とそういうことです。
それを昔の誰々はどのくらいの物を持っていたから、我々も同様の度量衡で計算した数値のものを持つべきだというは誤りだと考えます。練習量についてもそうです。そのくらいの物を持てる(くらい)練習したとか、一日何時間(練習するくらいの勢いで)練習したということを言葉で伝えて、学生を鼓舞するための方便です。
「〇〇するくらいの勢いで」が大事な概念です。
現代の中国老師でも、自分の能力を盛って見せるために、普段はめったに使わない大きめの武器を振り回している姿を見せつけることもあります。短期で学習に来る外国人に、自分の権威を印象付けるには有効な演出です。
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重い器具を使って練習するメリット
デメリットの裏にはメリットもありますのでメリットも述べておきます。重い器具を使えば筋肉が増強されます。
まとめ
中国武術のメリットは中国武術という概念そのものに、養生、健身、強身が包括されています。体の構造を傷めるほどの負荷をかけずに練習しても技撃にも防身にもなります。中国武術は、哲学、中原の人々が考える宇宙の構造への理解を深めることができる武学つまり、武術を借用した一つの学問です。
武器を重い物に持ち替えていく場合、老師や、先輩のペースに流されず、自分の調子をしっかり把握したうえでゆっくり負荷を上げていってください。中国武術を指導する方は、学生の運動強度をしっかり見極め、運動障害を起こさないように監督しながら功を深めていってあげる様心がけてください。