秋はどんどん深まってきていますが、この一週間は快晴の暖かい日が続きました。皆様いかがお過ごしでしょうか。
本日は愛知県豊川市の御津生涯学習会館の多目的室で八卦掌の練習を行いました。
2020年11月15日の練習内容
本日の練習内容は以下の通りです。
放鬆功
本日はまず上半身の放鬆功から練習を始めました。各自で首の付け根、肩、臂、腕、手、指の穴道を圧迫したり、揉んだり、さすったりして緩めていきます。本日は技撃で必要な概念として、腕の気脈の通り道を説明しながら上半身を緩めて頂きました。
私は台湾の大学院にも在学していたことはありますが、中国語を修めるために滞在していたのではなく、専攻は財務金融学でしたので中医学や推拿ではありません。解説は私自身が中国武術の試行錯誤の中で自分で体験したものの中から整理したものとなります。
本日は穴位のマッサージの後、「搖肩」という肩回しのような動作を行いました。
- 右搖肩 後輪
- 左搖肩 後輪
- 右搖肩 後輪
- 左搖肩 後輪
と順番に行いましたが、ポイントは、肩を回すのではなく、体全体を動かすこと、胯を鋭く水平に切る動作を発力源とすること、腕全体が円錐型に動くのではなく、平面の円形を描くことがポイントです。回転の軸を深くしていけばいくほどスムーズに動ける様になります。多少手間はかかります。
基礎十二式
一通り上半身のストレッチを行ったところで、基礎十二式の練習を行いました。
- 甩手式
- 柔球式
- 七星起式
- 掩手式
- 穿掌式
- 探掌式
本日も前回の練習と同じく基礎十二式から6種類の動作を練習しました。
甩手式
正中線の真正面を真下から真上に向かって手を上げていきます。顔の上まで一直線に手を振り上げた後、手は自然に背中に回し体をはたく動作を行います。
柔球式
揉球式は、体の全面で3Dの球面を弄ぶような動きです。腕と胸の中に柔らかく張力のある球を作るイメージではなく、腕の外側に外側に対して張力のある球面を作るイメージで行います。これにより体の前に意識の制空権を作ることができます。
七星起式
甩手式、柔球式は左右対称の動作でしたが、七星起式は左右が非対称の動作となります。但しこれについても前後に長い自分の圏(エリア)を意識しながらこれを操作する練習という点では変わりません。
掩手式
胯や肘、胸の開合をイメージしながら左右均等に練習を行いました。
穿掌式
鳩尾あたりから上に向かって穿を放ちます。一動作づつ行うのではなく、一動作目が打ち終わったころには次の動作が鳩尾の前で発射スタンバイが整っている状態を作ります。これで連環動作を作っていきます。
探掌式
体を左右に「たいをかわす」をしながら手を引く動作の蓄勁を利用して掌打を前方に打ち出します。「探」という概念は、「隙間をすり抜けて入り込む」ような意味合いが含まれます。引く手の意味はいろいろありますが代表的なものとして以下の物があります。
- 発勁動作の発力を補助すること
- 相手の肉(手や髪の毛等)を挽きむしること
北派武術の技撃性の前提条件として、「人は袖の長い長袖を着ている」があります。これは中国北方が乾燥した亜寒帯に属し、真夏を除けば人々は長袖を着るという風習があるからです。よって、技撃性動作には、手を掴む、腕を掴むだけではなく、襟をつかむ、袖を握って引っ張り込む等の動作の意味合いが含まれます。
袖を攻撃性動作に応用すれば、袖を目くらましに使ったり、錘を仕込んだ袖を鞭のように使い顔面を攻撃するなどがあります。また袖の中には得物や目くらましの砂袋を忍ばすこともできます。
転掌
本日は、基礎十二式の練習を簡単に終わらせ、転掌の練習に時間を割きました。転掌とは、八卦掌における中心的功法で、円周上を歩行する程派八卦掌の功法名です。他派ではこれを「走圏」という派もあります。
これまで「淌泥步」を直線で行ってきましたが、本日はこれに上半身の形を付け加え、尚且つ円周上を回るという要求を追加しました。主な要求項目は以下の通りです。
- 虛靈頂勁(背筋はまっすぐ)
- 含胸拔背(胸はゆるめる)
- 沉肩墜肘(肩を落として肘を沈める)
- 二目平視(顔面は水平を保つ)
- 外掌要蹬(外の手は立てる)
- 掌要翻(うちの掌は左に翻す)
- 指要領(うちの手の中指は天を指す)
- 足要伸(裡歩は伸ばして直進する)
- 外肘要心窩口(外の肘はみぞおちの位置に置く)
- 眼視手背外(うちの手の外側から円心を見る)
- 腰要擰(ウエストを捻る)
- 膝要抱(膝は開かない)
これをすべて完璧にこなしながら転掌を行うのは初めは無理です。一つ一つ確認しながら手間をかけて作り上げていくしかありません。
その他の解説内容
本日は基礎十二式、転掌以外にも中国北派武術の概念についていくつか実演を交えて紹介を行いました。
呼吸
中国武術を練る際には基本的に「自然呼吸」で行います(発力を行う場合などは体と呼吸を合わせて行う)。中国武術を練る中国人が考える自然呼吸の範囲は広く、体の動作とを能動的に協調させた呼吸をも自然呼吸として表します。
拳ではなく功を練る際には特に呼吸を重視することが大事です。胸と肩で呼吸するのではなく、できれば臍より下のお腹を意識した深い呼吸を意識して練習しましょう。
陰陽
手の打つと引く、息を吸うと吐く、等中国武術に限らず対照的な動作、概念について中国人はこれを陰と陽という概念で表します。呼吸以外にも、昼と夜、女性と男性、天と地、黒と白、動と静等様々な相対するものをこの概念で表します。
そしてこれらは通常100:0或いは0:100ではなく、陰と陽の比率は絶え間なく変化するとされます。例えば昼間と夜間は夕方と早朝を介して段階的に変化していくようなイメージです。
武術の動作ではさらに陰の中に陽があり、陽の中に陰があることを強調します。一般的な太極図を参照して頂くと白い部分の半分が黒い部分に入り込んでいて、黒い部分の半分が白い部分に入り込んでいる、さらには黒と白の点がお互いの中に内包されている、という表現がされています。この理(ことわり)が中国武術の概念を構成する上でも重要な要素になっていることを理解する必要があります。
刀術
本日は棒と木刀を借りて中国刀術についてデモンストレーションを行いました。中国刀は右手で操作し、左手はその補助を行います。「単刀看手」(単刀の良し悪しは左手を見ればわかる)と言われる通り、刀術の技術を推し量るには、左手をどう扱うかがカギを握ります。
本日のまとめ
現在、2週間に一度、愛知県豊川市と静岡県の方からの招聘により愛知県豊川市御津生涯学習会館で程派高式八卦掌のワークショップを行っています。
愛知県でも一度は収束しかけた新型コロナウイルスの感染者が再増加しており、これに粟わせて当会の練習も換気をしっかり行い、お互いの距離を十分たもつという対策を取ながらの練習をしております。本日は広い多目的室を確保頂き、十分なスペースで転掌を行うことができました。
本日は新しい要訣をたくさん体験して頂き、頭も体もハードな練習になってしまいましたが、要訣を一つ一つ吸収し慣れて頂くことで「功」は高まっていくものと信じております。