中国武術の門派、または中国武術全体を研究する場合、自分が就いている老師に習うだけではなく、老師の師兄弟、師叔 師伯、または他の系列の老師を訪問する場合も出てきます。
本日はそのような場合に留意するべきことを解説します。
目次
老師を訪問する際に留意すること
老師を訪問する際に留意するべきことは以下の通りです。
自分の老師に友好的な人物かどうかを予めよく調べること
訪問予定の老師の情報をあらかじめ収集し、過去に自分の老師との間に軋轢があったかどうかを確認しておきましょう。自分が収めている系譜との間に友好的な関係や共通点があるかどうかも調査しておくことが望ましいです。
武術の業界は「以武会友(武を以て友とまみゆ)」とし、武術を嗜む者はみな一家であるということを標榜としますが、実際には様々な背景が潜んでいます。
ある老師とある老師が過去に犬猿の仲であったという話も聴いたことがあります。それらの老師はイベントに同席した際には仲良さそうにツーショットの記念写真を撮っていることもあるため、写真だけでは判断ができないことも留意が必要です。
できれば信頼がおける業界通の知人から情報の聞き取りを行い、老師の人物像や過去の背景、好物について調査を行っておくべきです。
信頼できる人の紹介を得ること
老師を訪問する際には、信頼できる知人に紹介をしてもらいましょう。中国人は、武術や幫派、ビジネスにおいても見知らぬ人に対しては警戒を怠りません。ですが知人の紹介となると話は別です。
この場合粗相を犯したり、その後の立ち振る舞いが不適切であった場合、紹介者の面子に泥を塗ることになります。またそれがあなたのその後の武術人生に負の影響を与える可能性が出てきます。紹介者に恥をかかせてしまうことは絶対に行ってはいけません。
できれば紹介者に同行してもらうこと
老師を訪問する際にはできれば紹介者に同行をお願いし、紹介をしてもらいましょう。これで挨拶と訪問が不調に終わる確率を下げることができます。
中国武術は伝統芸能の一つですが、本質的には「技撃」という戦闘技術の体系であるため、人と傷つける可能性を秘めるものです。保守的な老師の中には技撃上決め手となる最重要技技術だけは自分の弟子にさえ教えないという話もあるほどです。
老師の中には人との距離感に敏感な方もいます。既知の紹介者に同行してもらえばその警戒心を大幅に緩解できることは間違いないと思います。
紹介者から連絡をとってもらいアポを取って訪問すること
老師との連絡は自分から行うのではなく、できれば紹介者から連絡を取ってもらいアポを取ってもらいましょう。手順が面倒ですが、これも紹介者の顔をたてるととともに、訪問の成果物を最大にする一つのコツです。その後の訪問でも初めの数回は突然の訪問はできれば避けたほうが良いです。
つまらないものではない手土産を持参しよう
日本では、「つまらないものですが」という意味不明の謙遜がまかり通っていますが、中国は日本と違う文化の国です。「つまらないものですが、」という表現は中国語にはありませんし、つまらないものを持っていくのは普通に失礼です。自慢の一品もっていきましょう。
お酒が好きなら有名銘柄の高グレードのスコッチウイスキー等が好まれますし、甘いものが好きな方なら有名店の和菓子も喜ばれます。普段老師が目にすることが少ない珍しいものを持参するとよいでしょう。
深掘りした質問は信頼関係を築いてから
中国武術の研究課題において早急に確認しなければいけない場合、時間が限られる場合を除いて、武術老師へのヒアリングは徐々に段階を分けて行いましょう。
現在は多少緩和されているものの、伝統武術の老師にはいまだに保守的で身内以外への警戒心をなかなか解かない人物がいることは確かです。初めて訪問を行った際は自己紹介と挨拶、世間話程度にとどめ、2回目には一般的な質問をし、3度目以降にそれよりさらに一歩踏み込んだヒアリングをするという方法で徐々に深掘りをしていく方法が望ましいです。
初回の訪問では何も成果物が得られなかったと思うかもしれません。ですが、面識をえるということがすでに大きな成果物です。日本人は性急に成果を求める傾向が強いため、なかなか理解されない感性かもしれませんが、大河を流れる水のようにゆっくりと信頼関係を築いていけばいずれは様々な情報を得られるようになります。
まとめ
中国武術の系譜や歴史を研究する場合、それらを跨いだ研究をする際には、上術のポイントを踏まえて人の和を広げていく必要があります。そのためには普段から誠実な立ち振る舞いを行い、調和と協調を以て物事を解決する姿勢が重要です。
中国武術という伝統芸能を研究し紐解くには時間も手間もかかるものです。しかし研究をおこないそれを整理し発表し、議論し評論することは中国武術の業界を高揚することに貢献します。
あなたの武術に対する情熱と誠実で真摯な態度が老師に伝われば老師も心を開いて研究に協力してくれることは間違いありません。
本日の記事が皆さんの武術探求の手助けになれば幸いです。