中庸とは儒教の「四書」の一つであり、その中心的概念ことです。日本語でも中庸という言葉を使うことがありますが、本日はこの中庸の概念と中国武術の練習への取り込み方などについて解説します。
目次
中庸とは
中庸とは、論語の中の「中庸の徳たるや、それ至れるかな」が初見とされています。中庸は儒教の四書五経の一つとして広く知られています。その内容は中庸の徳を解説したものです。中庸の中とは、どこにも偏らないという意味であり、庸とは平常という意味を指します。
この中庸の徳を発揮することを中国人は聖人君子でも難しく、学識を得たものしか体現できないものと認識ています。よって中庸を表すことは儒教的な行動規範の基準にならう高尚な概念であるとされています。
武術に中庸を採用するメリット
武術に中庸の考え方を採用するメリットは以下の通りです。
オーバートレーニングを避けることができる
中国武術の練習に中庸の概念を取り入れるメリットは何と言っても「オーバートレーニング」を避ける事に尽きます。
中庸の道を意識すれば、負荷が高すぎる練習は有害であることが容易に理解できるようになります。自分の体力と比較して高すぎる運動強度の練習をすることは、筋肉や骨格を痛めるリスクを大きく増大させます。
すこし調子をこいて無理をしてハムストリングスにすこし「ピッ」と違和感を感じただけでもその違和感、つまり痛みは3か月は引きずります。
すこし無理するだけで3か月間、股関節を気にし続けなければいけなくなります。これはアスリートにとって大きな損失となります。ほどほどに練習することは、体力の維持増強、技術の強化、心身の健全性を維持するために最高の効率性を発揮します。
楽すぎる練習内容を避けることができる
中庸の道を意識することはオーバートレーニングや運動障害を避けることができるとともに
負荷が低すぎる練習を防ぐ効果もあります。オーバートレーニングはだめだと言っても、運動強度が低すぎる練習を行っても技術的向上が見込めないばかりか、体力や筋力の増強も期待できなくなります。
最適な負荷、ぬるくもなくキツすぎない、最低なポジション、それが中庸の道です。
偏った考えを避けることができる
中華文明の普遍的価値観である中庸の道を意識することにより、偏った考えを正すことができます。極端な考え方、常軌を逸した考え方等社会通念上許容されにくい範囲まで偏った思想を修正することができます。
日本社会は同調圧力が強い社会であり、調和と協調を強制させるころがあります。中華社会の同調圧力は日本ほどではないですが、思想や哲学により自ずから中道が最適であるという
ことを悟らせようという工夫があります。
処世のバランス感覚を考えるきっかけになる
中国人が考える中庸の道、これは中国武術に応用できる概念ですが、これを考えながら練習することで、中庸の道が人生の処世におけるバランス感覚を考えるきっかけになることを発見できます。厳しすぎれば人が離れ、ぬるすぎれば舐められる。緩すぎず、厳格過ぎずほどほどが一番むつかしいことを体の操作の練習と並行して悟ることができます。
世界は絶秒なバランスで成り立つを知ることができる
中庸の道を考える、これは世界のバランスは陰と陽という相反する要素が互いに影響しあい、干渉しあい比率を刻々と変化させながら両立していることを知るきっかけになります。もちろんこれは中国の易経や陰陽思想と言う一つの概念ですが、中華文明の理解を深めることは、中国武術の根底に流れる原則を把握することにつながると思います。
まとめ
仕事やスポーツで「やりこむ」「精一杯やる」「全力を出し切る」等が状況を打開する方法だと思っていませんか。中国人はそのようなことは考えていません。ほどほどに、適当に、いい塩梅に、慢慢来でやることが長期的な視野で考えてもっとも効用が高い方法だと知っています。
無理をする、頑張る、気張る、気合で乗り切る、では息切れがしてしまい、いつかは疲れ果ててしまうかオーバートレーニングで炎症を起こします。逆に練習の負荷が低すぎれば技術がいっこうに上達せず、武術の神髄を会得する前に健康寿命のリミットが来てしまいます。
中国武術は長く楽しめる趣味、余暇活動、実用性も一応備えた伝統的な芸道です。
ほどほどに負荷をかけ、ほどほどに練習し、ほどほどの時間をかけて、ほどほどに楽しめば
気分は爽快になり、体は壮健になり、運動障害も起こらず、自分に自信がつき、自己肯定感が漲り、人間関係は円満に、そして人生が充実したものになります。
中庸の道、これは勉強や、食べすぎ、頑張りすぎ、気張りすぎ、を防ぎ、人間のバランスを考えるきっかけになります。特に事あるごとに衝突し、やりすぎる、性急すぎる日本人のせっかちな根性を制するきっかけになると考えます。
中国人が論じる「中庸之道」、ぜひ参考にしてみてはいかがでしょうか。本日のブログが皆さまの中国武術研鑽や人生観の参考になれば幸いです。