皆さんは「養兵千日、用兵一時」という中国語の成語を聞いたことはあるでしょうか。いざ時のために日ごろから準備を怠らないようにしようという意味の成語です。本日は、養兵千日、用兵一時という成語について解説をしてみようと思います。
養兵千日、用兵一時の意味
「養兵千日、用兵一時」とは必要な時のため平時に怠らず兵を訓練し力を蓄積し、いざというときに力を発揮できるようにしようというという意味です。
養兵千日、用兵一時では養うものは兵としていますが、これは軍事力、活動力、運動能力、戦闘能力と言い換えることもできます。千日とは、1000日間という意味ではなく、「とても長い時間」という意味です。
また一時とは、一瞬、肝心な時、いざというとき、という意味です。こういう表現は中国人がよく使う言い回しです。語呂合わせ、または事柄を強調するために大きな数字や誇張した表現を使うことがありますが、数字や規模にこだわる必要はありません。
養兵千日、用兵一時は、いざというときに使えるようにするために、長い時間をかけて実力を養っておくべし、という意味です。日ごろの努力、日常的な修練、地味な備えを怠らないようにせよ、という戒めがあります。
養兵千日、用兵一時の出典
養兵千日、用兵一時は以下の文章から出典があります。
南史·陳暄伝
兵可千日而不用,不可一日而不備。
水滸伝
養兵千日,用在一朝。我要你跟我去走一遭、你便有許多推故。
三国演義
朝廷養軍千日、用在一時、汝安敢出怨言、以慢軍心。
西遊記
養軍千日,用軍一朝。你怎麼不出去
白洋淀紀事·光栄
養兵千日、用兵一時 大敵壓境、你們不說打仗、反倒逃跑。
豌豆偷樹
同學們正加緊複習、每天晚上提著油燈來學校夜讀、我也搬到學校來住了、一天只能睡四五個鐘頭,很乏。俗話說,養兵千日,用兵一時,得撐住
冬天裡的春天
有的說應該動傢伙、養兵千日、用在一時、有的說可千萬別開火、你有槍、難保於二龍會空著手。
養兵千日、用兵一時の類語
養兵千日、用兵一時には以下のような類語があります。
- 備えあれば憂いなし
- 台上十分鐘、台下十年功
中国武術における養兵千日、用兵一時
中国武術の練習においても養兵千日、用兵一時の心は生かすことができます。なぜならば中国武術を大成するには非常に長い年月がかかるからです。
中国武術の中でも即戦性が高いといわれる拳手である螳螂拳や通背拳、孫臏拳でも半年そこらでは用法は覚えても体がまだまだ出来上がっては来ません。
用法が繰り出せるようになっただけの状態ではたとえ相手に打撃を当てることができても、有効な打撃力を与えることは難しいです。前腕や掌を硬いものにぶつけて硬功的練習を行っても体ができてくるのには早くて3年かかります。
内家拳は硬功でなく、意念の操作、重心の制御、呼吸と気の配合などを重視する門派で、大成すれば技術を維持するためのランニングコストが非常に低廉で済み、合理的で非常に経済的ですが、そのソフトウェア部分を構築するには10年かかると言われています。
これだけの膨大な手間をかけても、いざ使うときは一瞬です。中国武術の技撃は2分や3分の長時間の格闘戦を想定しているものではありません。まさに一時で勝負が決まります。その一瞬のため、中国武術家は日々絶え間ない努力で自分の技を磨きそれを維持しています。
養兵千日、用兵一時のまとめ
今回は「養兵千日、用兵一時」について解説しました。
兵士を養って一人前にし作戦行動ができるように育て上げるには長い年月がかかる、しかしその兵を使うのはほんの一瞬である。ですが、その一瞬のために兵は日々技を磨き、厳しい訓練に明け暮れます。「養兵千日、用兵一時」は、日ごろからそのような場面が起こりうることを想定し、常に準備を怠らないことを説いています。
これは文事武備、つまり、「文をなす者、必ず武備あり」という通り、私のように日ごろサラリーマンで事務仕事をしている人でもいざという武の備えを怠ることなかれということを言っているような気がします。
中国武術はこれを威嚇、脅迫、積極的な武力行使、他人の権益の奪取のために練るものではありません。そんなくだらないことのために人を蹴ったり叩いたり、殴り合ったりして喜んでいるのはちょっと私の感性というよりも、
- 君子は口を動かし小人は手を動かす
- 万般皆下品、唯読書高(世間のものは全て卑しい、ただ読書のみが高尚である)
- 君子喧嘩せず
という君子や文人の思想の感性からはちょっとあれだとおもいます。
他からの暴挙、自己の権益と安全の確保のためという消極的な備えのために練るものです。
つまりは中国武術の「不争の徳」です。
武術は全体の均衡と協調、調和のために練るものです。「本当に使うために練習する」のは如何なものかと思います。
中国武術を練習する際には「養兵千日、用兵一時」を考えながら練習しましょう。日々研鑽を怠らないためのモチベーションになると思います。
このブログが皆様の中国武術研鑽の参考になれば幸いです。