中国武術

根性論不要 ~中国武術に根性論は必要ない~

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皆さんは根性論やスポ根という言葉を聞いたことはあるでしょうか。根性論とは、苦難に屈しない精神・根性があればどんなことでも解決でいるという考え方です。

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中国武術の上達には、この根性論は全く必要ありません。むしろ根性論は中国武術の精神論の理解を阻害するにはむしろ有害ですらあります。

本日は根性論が中国武術に必要がない理由などについて解説します。

根性論とは

ラグビー選手ラグビー選手

根性論とは、乗り越えない限界も、根性次第で乗り越えられるという考えです。また強い精神力があれば何事も成し遂げられるという考え方の精神論、精神主義の一つです。

東京オリンピックによる競技者の精神的基調としても重視され、トップアスリートを養成するための猛特訓が重視される時代でした。この根性論はトップアスリートに限らず、学校のクラブ活動の指導にも反映されるようになったと考えられます。

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根性論が形成された背景

サッカーサッカー

日本では明治時代に西洋から様々スポーツが輸入されてきましたが、社会的交流というの手段と言う概念については関心がもたれず、ただ技術向上と勝利の追求と言う部分にのみ関心が払われるに至りました。

これは外形を猿真似だけして満足する日本人の悪弊だと思われますが技術向上と勝利を実現するため指導法ととして精神に訴えかける根性と言うものが定着したと思われます。

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精神力や気力については第二次世界大戦後には非科学的であるということで否定的にとらえられていましたが、1964に開催された東京オリンピックにおいて、精神面を前面にした厳しい練習方法が成果をあげたことから厳しさを耐え抜き努力する姿勢を称賛する風潮が生まれ、それがスポーツだけでなく、社会において「根性」という概念が普及するに至った一つの理由であると考えられるようになっています。

中国武術に根性論は不要な理由

バレーボールバレーボール

中国武術には根性論が不要な理由を以下に説明します。

精神論は技術向上に寄与しない

精神論を振りかざして練習しても、技術向上には直接寄与しません。日本武道を本格的にやったことがないので公平な比較はできませんが、少なくとも中国武術においては精神論と根性論でいくら精神的にきついだけの練習をこなしてもうまくはなりません。ただしんどいだけ、つらいだけ、徒労に終わります。根性が身につくこともありません。

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技術向上に対する集中力を妨げる

根性論で練習しても別に技術が向上するわけでもなければ武術の理解が深まるわけでもありません。外部からの厳しいプレッシャーにより練習本来に向けるべき集中力が損なわれ、技術向上へのリソース配分がそがれてしまいます。

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適切な運動強度からかい離する

根性論でしごかれて運動すると技術は上達し持久力も多少上がるかもしれません。ですが、練習する人本人に適切な運動強度から乖離して、負荷が過大な状態で練習してしまいます。

年齢が若ければ多少運動強度が高い練習も問題は少ないですが、年齢が上がるに従い、筋肉や腱の柔軟性が低下し、体の修復にかかる時間が長くなるため、適切な運動強度を無視した根性論を前面に押し出す練習は運動障害の発生、最悪の場合、選手生命を縮める原因となります。

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運動障害を起こす確率を高める

根性論に前面に押し出して休息をおろそかにし、運動強度を無視して練習すれば運動障害を起こす確率が高まります。関節や筋肉に炎症を起こすと言う障害の他に、炎天下で水を飲まずに練習し、熱中症で練習生が倒れたり、風邪で体調がすぐれないので無理に練習して、体調を余計に悪化させるというケースがあります。

練習生のモチベーションを下げる

根性論は人を強制的に動かせる論理です。無理やりやらされてる感満載の中で練習することになります。このやらされ感、強制感は練習生のモチベーションに大きな影響を与え、選手のやる気を大きく失わせます。本来スポーツは心の中から自然に沸き起こるモチベーションで自発的に練習を行うのが本筋です。

オーバートレーニングになる

苦しい練習を根性で乗り切るという練習方式では、どうしてもオーバートレーニングのリスクが付きまといます。スポーツは日常での身体活動よりも大きな負荷のかかる運動を行い効果を得るという原則はありますが、過度の長時間の練習や、筋力トレーニング、居残り練習等の指導法は特に少年期の選手に対しては不要であり、使い過ぎ症候群を助長させるリスクがあります。

スポーツ障害は、同一動作を繰り返し行うことにより痛みを生じる身体の損傷であり、その主な原因はオーバーユースにあります。子供の治癒能力は旺盛ですので初期に適切な処置を行えば完全に回復しますが、不適切な対処をすると大人になっても残る後遺症が残る可能性があります。オーバートレーニングによる疲労症候群、貧血、不整脈にも注意が必要です。

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選手生命を著しく短くし、人間の健康寿命を損なう

根性論で「痛み」や「疲労」と言う体が発する赤信号を無視して関節を酷使すれば選手生命を著しく短縮させ、最悪その選手の健康寿命を損なってしまう可能性があります。

体の強靭さには個人差がありますが、野球のピッチャーで若いころエースとして活躍し、球団にこき使われ挙句の果てに肘や肩を故障してしまい選手生命を短くして戦力外通知となった人も多いと思います。

有望な人材が辛くて辞めてしまう

根性論を振りかざし理不尽な練習をさせ続けると、有望な人材、優秀な選手が辛くてやめてしまいます。これは辞める本人にとってはとてもつらいことですが、指導する団体にとっても損失になります。それ以上に有望な選手が途中で練習を辞めてしまうということは、その競技や業界を背負う人材を潰したということになりますので業界全体の損失となり得ます。

つらい割に得るものがない

根性論を前面に押し出した練習は精神的にも肉体的にもつらいものになります。ですが、科学的根拠に基づいた練習とは限らずただつらい思いをさせるだけに終始することもあるため
体の負荷や精神的苦痛の割には技術的に得る物がない内容となります。骨折り損のくたびれもうけです。苦しいわりに成果の乏しい内容のトレーニングに終始してしまいます。

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競争力を低下させる

中国武術に限らずスポーツは国際的な激しい競争に晒されています。選手の肉体年齢を考慮した場合活躍できる年齢は限られています。そこで根性論と言う効率を度外視した練習を強いることはそのスポーツとスポーツ選手の競争力を著しく失わせます。

選手の自立、自主性を軽視する

根性論で上から押さえつける指導スタイルは選手の自立や自主性を軽視した指導方法です。
人間は何らかの外圧、指示、命令によらなければ成長できないという誤った固定概念による指導方法です。

人間は正しい動機付けと自己実現による充足感、名声のためならモチベーションを維持して主体的、自律的に目標に向かって努力ができる動物です。この現実を無視し、精神的な追い込みを行うことは、選手の精神的自立を大きく損ない、選手のモチベーションを大きく下げる原因になり得ます。

暴力とハラスメントの温床になる

根性論は時として「しごき」とセットになります。竹刀をもって指導する、間違えればビンタする、または意味のない連帯責任と技術向上とは関係ない動作を強いる等、人格を否定する発言をするなど、根性論は本来許されない暴力や選手の人格と尊厳の否定がおこる温床となり得ます。

人格を否定し尊厳を傷つける行為は指導ではなく、優越的な権力を利用したただのハラスメントです。

スポーツ全体への偏見につながる

時代錯誤な根性論による指導は、スポーツ全体への偏見につながる可能性があります。合理的で効率的、科学的で動機付けとケアが行き届いたトレーニング方式を採用しているトレーニング形態もある一方で罵声や暴力、ハードなトレーニングを強制的に課す指導者がいることで、スポーツのイメージに悪い影響を及ぼすことが心配されています。

根性論がはびこる理由の考察

腹筋する女性腹筋する女性

ここでは根性論がはびこってしまう理由について考えてみます。根性論がはびこる理由にはいかのようなことが考えられます。

選手自身が根性論を美徳と考える

根性論がはびこる理由としては、まず選手自体が根性論メインで練習をしてきており、それ以外の成功事例を信じることができないということがあげられます。苦しい練習に耐えた、長い練習をこなした満足感という偽りの成果に自分が酔ってしまう、これが根性論がはびこり続ける原因の一つです。そういう苦しい練習をしている自分を愛してしまっています。一種のナルシズムです。

諦めない話が好き

根性論がはびこる理由の二つ目に、そもそも根性論を好む人間が世の中にはいるということです。人間には、「あきらめず、頑張って、努力して、苦難の中を乗り切って成就する」というストーリーが好きな人がいるんです。人間には好き嫌い、嗜好というものがありますのでこれはどうすることもできません。

指導者のレベルが低い

根性論がはびこる最大の理由は、指導者のレベルの低いということに尽きます。生理学や運動理論、コーチングと動機づけなど今のスポーツトレーニングでは当たり前になっている教養を持っていない指導者が多すぎるという問題です。

知識がないがゆえにクオリティーを量でカバーしようとしたり、きつい練習を課すことにより自分の指導の技術の無さを隠そうとする意図が見え隠れします。もっとひどいものでいうと、漫画やテレビ映像を参考にしたトレーニング、うさぎ跳び等の負荷が大きく、傷害のリスクが大きいだけで効果が少ない練習法を採用し、それを選手に強いるというのがあるくらいです。

スポーツ理論に精通していない指導者のもとで効率の悪いトレーニングを強いられ体を壊す将来有望な選手を見ていると本当に気の毒でなりません。教室の練習法が理にかなっていないと感じた場合は、そこで習い事をしようとするのはやめた方がいいと思います。

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指導者が指導技術の研鑽を怠っている

指導者が根性論に走る理由はほかにもあります。それは指導者自身が根性論で育ち、それしか方法論を知らず、その他の具体的な方法論を持っておらず、その他の効率的な指導方法の習得さえ怠っているという場合です。

根性論的な練習しかさせられてこなかったところは可哀そうなところもありますが、指導をするにあたっては常により効果的で効率的な練習方法を研究し実証する姿勢が重要です。これを怠る指導者がいるというのは問題です。

中国養生術を軽視している

国を代表する選手を養成する体育大学など以外の、いわゆる民間の武術教室では苦しいだけの練習は行いません。伝統的な中国武術は養生と練功をセットで行い、中庸之道を考慮に入れて気を練り、体を作り、技芸を磨きます。

武術の老師には医術や養生術に精通した方も多く、武術老師をする傍ら中医学の治療院や鍼灸院を開業している方もおられます。「中国武術は戦闘技術の集大成である」などと数ある中国武術の実用的価値の中から技撃のみを選択し抽出した結果の成れの果てが養生の軽視です。

日本のスポーツ界について

空手を練習する女性空手を練習する女性

日本の経済やビジネスは先進国の中では低成長というものの少しづつ進化を遂げています。
製造技術やIT技術の進化は目を見張るものがあります。ですが、スポーツの指導方法や指導技術の成長曲線はそれらと比べて鈍いと言わざるを得ません。

ビジネスでは創意工夫と技術革新、アイデア、手法の革新による効率性の向上が評価されます。最近は少しは改善の兆しが見えてきてはいるものの、今でもスポーツは根性で乗り切る美談が出てきます。長時間の練習を改善しようとすると、ただ練習の密度を上げて運動負荷を上げるだけ終始することになります。

これでは投下労力に対する成果は上がったとは言えません。ただ手間をたくさんかけただけにすぎません。効率性を上げ、武術やスポーツの生産性自体をあげる工夫が必要だと感じています。

根性論不要についてのまとめ

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中国武術に根性論は不要です。「武術でもスポーツでも最後は根性、気合が大事だよ」という方もいるかもしれませんが、私はそれを完全に否定します。

中国武術の上達には、理論、認識、背景、風土を正しく理解、認識し、正しい姿勢、動作、過渡式と意念、気の概念、身体操作法に則り、養生術と合わせて、手間と時間をかけて磨練するのが正攻法です。

現在はいろいろな動画、書籍、ヒント等情報があふれています。老師から教えてもらったことを基に、老師の指導内容を鵜呑みにせず常に物事を疑い、客観、公平、公正に検証し、比較し、評価する。そして質の高い練習で武術の高みを目指していきましょう。

そして中国人の古い智慧から新しきを知り、中華文明の奥深さを愉しみましょう。

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