日本武道は投げを伴う流派が多く、突き、蹴りが比較的少ない傾向にあります。中国北派武術は、打(打撃) 踢(蹴り) 摔(投げ) 拿(関節) の技術を保持していますが、総合的に考えると、突き、蹴りを主とする打撃系武術に分類されます。
これは、履物の違い、支配階級の違い、佩刀の習慣、などの背景がありますが、それとは別に、筋肉の構造について、中国人(特に北方の漢人と)と大和民族には違いがあります。
本日は、屈筋優位と伸筋優位という見地から中国武術と日本武道の差異を解説をします。
屈筋と伸筋
屈筋とは、収縮する筋肉のことです。上腕の力こぶ、胸筋を固める状態、腹筋を割っている状態これらは屈筋を収縮させている状態です。体全体を収縮させ、コンパクトにまとめる力、物を握る握力も屈筋の作用です。
伸筋とは、手や足を伸長させる作用を持つ筋肉です。力こぶの逆側、外側の筋肉、大腿部前面の筋肉などがそうです。これを収縮させることにより、手、足を延ばし、パンチ、キックを行います。
武術における屈筋の作用
武術動作において、屈筋が作用する動作としては
- 拳を握りしめる動作
- 手を引き寄せる動作
- 刀を引く動作あ
等であり、これらは、相手の襟をつかんで引っ張る動作、刀術において振りかぶった刀を
降り下ろし引き切る動作に使われます。具体的には、柔道の投げ、相撲の投げ、刀術の斬撃です。
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武術における伸筋の作用
武術動作において、伸筋が作用する動作としては掌での抜手、拳打、つま先蹴り、剣での刺突、槍での刺突です。
日本人は屈筋優位、中国人は伸筋優位
日本人は、屈筋が優位であると言われています。揉め事が発生し、興奮し緊張した際、日本人は胸ぐらをつかみにかかります。これは、精神が緊張した際、無意識に屈筋に力が入り、手を引き寄せる力が働いている結果です。
中国武術は、両手を放つような連続拳撃、腿撃を得意とする門派が多くあります。これは彼らが自分たちの自然な反応である伸筋優位を生かした結果です。
皆さんは中国の鉋(カンナ)を見たことがあるでしょうか。日本のカンナは直方体の形状をしており、引いて木材の表面を削りますが、中国の鉋は棒状の取っ手がついており、これを押して木材を削ります。ここに屈筋優位と伸筋優位における決定的な民族的違いが出ています。
西洋人はスコップで土を掘り返し、日本人は鍬や鋤で地面を掘り返します。ここにも屈筋と伸筋の違いが表れています。
日本人は農耕民族だから屈筋優位であるという説について
日本人は農耕民族だから屈筋優位であるという説がありますが、私はこの説には賛成しません。
なぜなら、日本民族は、言語学的には、主語、修飾語、動詞という文法形態をとるグループに属しており、ツングース系民族(満州族やオロチョン族)、モンゴル族、トゥルク系民族のグループに属します。彼らは農耕民族ではなく、伸筋と屈筋を農耕民族であるかどうかという枠で括ることはできないと思います。
日本民族は、後世稲作の伝播により農耕を生業とする生活習慣を持つに至ったと考えるのが妥当です。血統的には古モンゴロイドと新モンゴロイドの混血民族です。日本民族と、契丹人、満州族を含めたツングース系民族や蒙古族民族との間には
- 文法が、主語、修飾語、動詞(SOV形)
- 単語の先頭にRの発音が来ない
- 投げ主体の武術がある(モンゴル相撲、満州摔角 柔道、相撲)
- 武人階級が支配階級となる
- 頭頂部を剃る習慣(日本でも公卿はこれを行いませんが)
というような共通項があります。
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まとめ
屈筋と伸筋について知識を持つことで、武術の成り立ち、技の構成についての理解が深まる可能性があります。
人間には、個体差があり、筋肉が肥大化しやすいタイプ、皮下脂肪を蓄えやすい体質、細身の体質などがありますが、傾向性として、これらを考え練習すると体を動かして体力を消耗するだけではない武術の楽しみ方ができると思います。