武術、武道を嗜んでおられる方には、武器は手の延長であるという言葉を聞いた方もおられるのではないでしょうか。
徒手の動作から発展した武術、武道の場合、武器は手の延長であると言う考え方となりますが中国武術の場合、武器術で発生した動作を使って徒手拳術を練っているという体系のため
むしろ、「手は武器の縮図である」と言う考えで練習します。
本日は手は武器の縮図であるという概念について解説します。
手は武器の縮図である理由
中国武術において手は武器の縮図であると考える理由を以下に説明します。
中国武術の技術は武器由来である
比較的古くからある中国武術は比較的重量のある武器を扱う技術が含まれています。その武器の操作技術を、武器を持たない状態で体現したのが徒手武術です。よって中国武術はもともとあった徒手の武術に付け加えて武器を持つようになった技術体系とは逆の発想を持っています。
武器を持って戦う技術を拳や掌に転訛しています。そのために、一対一の徒手格闘戦として考えるとどう考えても不合理な姿勢や技、手法がたくさんあります。例えば後の手を翼のように大きく後ろに広げるポーズ、これは一対一の徒手格闘では技撃性としての意味は余りありません。
これは手を後ろにも広げることで意識を前方だけでなく全領域に広げるという技撃的効果はあります。ですがこれは一対一に対応したものではなく、一対複数をも想定している考え方です。
またこのように手を広げて重心の遠くに手を配置する意味は徒手では意味はありませんが、片手に武器を持った場合には武器と体全体のバランスを保つ意味では大きな意味を持つようになります。例えばフェンシングの選手がサーベルを突く瞬間に、後ろの手をサーベルと対称になるような位置に置くようにしていることがそれを現しています。
動作が左右非対称
中国武術の動作は右と左の動作は非対称な構成になっています(例外はあります)。これは片手で武器を持つ戦闘技術が徒手技術に転訛されたためであると考えます。右構えで右手で打ち出す動作が多いことは、剣や刀の刺突を拳に置き換えたものと考えれば納得がいきます。
槍術は左半身で構え、右手を押し出すようにして突き出します。これも左右非対称の動きとなります。槍を押し出す力の出し方を、逆手の打撃に生かし、槍を拳に置き換えれば、徒手の操作に置き換わります。
強い半身をとる
両手を均等打撃に使うには強い半身はデメリットもあります。ですが中国武術の多くは強い半身で構えを作ります。これは片手に持った武器を前面に押し出しつつ、相手に対する投影面積を最小化するという武器術由来の工夫です。
身法と歩法は完全に同一
中国武術の身法と歩法は武器を持つか持たないかに関わらず完全に同一です。相手との想定距離は違いますが、体の動かし方は同じですので素手でも何かをもっても体がびっくりすることはありません。徒手で武器を練り、武器で体を練ることができるわけです。
パワーショベルが先端部のアタッチメントにいろいろな部品を接続して掘削以外の多くの作業を行うことができるように人間も手に持つものを持ち帰ることにより様々な作業、戦闘を行うことができます。
掌を多用する
中国武術は掌を多用します。徒手の技術で考えると、拳骨の硬いところを使って拳打をするほうが相手を痛めつけやすく、握りこんだ拳は硬く、突き指をしにくい状態になり有利な部分があります。にもかかわらず中国武術は掌を多用します。
それは、徒手にも関わらず、あたかも武器を持った状態のように意識を指先の末端より長い場所まで通すための工夫です。これを行えば、掌という連結部に更なる何かが連なるようになっても違和感なく体と物体がイメージとして繋がります。
まとめ
本日は中国武術の「手は武器の縮図である」と言う概念について解説しました。
中国武術において、近代の後期に体系が整理された門派では武器術を主体にしないものもあり、武器術と徒手技術の関連性があまり強くない門派もあることは事実ですが、中国武術は総じて武器術と徒手技術との関連性が密着で、シームレスな技術体系を持っているものが多いです。
ですから、中国武術は好きだけど、現代では武器は使う機会がなさそうだしやっても仕方ないからやらなーい、徒手の格闘技術だけ参考にすればOK~。と言うのでは中国武術の本質を知ることは非常に困難です。中国武術として上手くなれないと思います。
徒手格闘術として中国武術を極めたいのであれば、中国武術はそれほどの優位性があるものではないことを理解することは必要です。徒手格闘技術として中国武術というテーマを選んでしまうと、多分ですが時間がもったいないです。世の中にはもっと格闘性能が高い技撃術はたくさん存在します。
でも中国武術をより深く理解したい、中国武術の徒手技術をもっとうまく使えるようになりたい、そういう強い気持ちがあるのでしたら、ぜひ武器術をたくさん練習してください。武器は手の延長とも言えますが、実際には徒手が武器の縮図です。武器を練れば徒手技術は絶対にうまくなります。
そしていろいろなものを参考にし、自分に合ったものを見つけてみてください。