みなさんは不夜城という小説、映画を見たことはありますでしょうか。不夜城は1996年に発刊され1998年に映画化もされた馳星周のシリーズ小説です。後に「鎮魂歌―不夜城II」、「長恨歌―不夜城 完結編」も発刊され3部作で不夜城シリーズと呼ばれています。
不夜城は、中華社会と在日中国人と台湾人の社会について理解を深めるためには、不夜城はうってつけの教材です。本日は不夜城を紹介します。
目次
不夜城のあらすじ
東京新宿歌舞伎町、日本一の歓楽街と言われるその街で、台湾と日本のハーフの劉健一は故買屋をしながら中国人社会を器用に渡り歩いていた。ある日、かつての相棒の呉富春が名古屋から歌舞伎町に舞い戻ったことを知らされる。呉富春は歌舞伎町で上海グループを取り仕切るマフィアのボスである元成貴の片腕を殺し、姿をくらましていたのだ。
呉富春が東京に戻ったことを聞きつけた元成貴は劉健一を呼び出し、3日以内に呉富春を連れてくるように命じる。そんな時、夏美という女性から「買ってもらいたいものがある」という一通の電話がかかる。夏美が売りたいと申し出たものは、呉富春であった。
呉富春を元成貴に差し出しても自分がただで済むとは思えない劉健一は一計を画して別の勢力を利用し、富春を殺すように企む。
不夜城の登場人物
不夜城の主要な登場人物を抜粋して解説します。
劉 健一
日本と台湾のハーフで父親は台湾人。父親は大阪でやくざとの喧嘩が原因で死亡。行くところがなくなった母親と劉健一は父親のつてで楊偉民を頼り歌舞伎町に移り住んだ経緯を持つ。30代半ば過ぎ、故買屋をしながらもしけたバーを経営している。
新宿界隈の中国人社会を上手く泳いで生活している。日本名は高橋健一、日本国籍を持っているが日本社会にも台湾、中国人社会にも馴染め切れていない自分をただひたすら自分の勘だけを頼りに飛び回って生き延びる蝙蝠に例えている。
佐藤 夏美
名古屋で水商売をしている時に呉富春と知り合ったという女性。残留孤児二世。自称黒竜江省出身。呉富春からは「小蓮」と呼ばれている。
呉 富春
日本と中国のハーフで残留孤児二世。かつては劉健一の相棒だったが金で殺しをするようになり、コンビを相棒関係を解消していた。呉富春が歌舞伎町に戻ってきたことで物語が動き出す。
楊 偉民
歌舞伎町で漢方薬局を営んでいる台湾人。さまざまな情報を集め、その情報を流すことにより恩を売っている。一時期は劉健一の保護者存在だったが、ある事件を機に劉健一を切り捨てた存在。
元 成貴
上海グループの老闆(ボス)。銀行の支店長とランチを食べに行くほどビジネスを広く展開している。側近を呉富春に殺されたことから、呉富春を血眼になって探している。
崔虎
北京グループの老闆(ボス)。北京人を率いている。凶暴性とともに策略を巡らせる頭を備えている。
徐鋭
楊偉民の手下の若者。台湾人
葉 暁丹
歌舞伎町でパチンコ屋を経営する台湾人。1000万円をはした金と言えるほどの経済力をもっている。
不夜城の読みどころ
ここでは不夜城を読むことで知ることができることを紹介します。
日本の中華社会
日本の中華社会は大きく分けて2種類あります。それは中華人民共和国の国籍をもった中国人(いわゆる大陸人)、もう一つは中華民国の国籍を持った中国人(いわゆる台湾人)です。彼らは韓国人と朝鮮籍の学生が通う学校が違うように、通う学校も異なります。
台湾人には戦前から日本に移住し特別永住者となっている者もいれば、戦後に日本に移住し、また留学し日本に住み着いている方もいます。不夜城が書かれた時代に歌舞伎町にいた中国人は上海人や北京人が多かったのかもしれません。日本の経済成長期に日本に渡ってきた比較的新しい移民者です。
日本在住の台湾人
台湾人の中には戦前から日本に居を移している人がいたので、戦後の混乱の中で財を成した人もいました。また特別永住者のうち数%は台湾出身者とその子孫です。台湾人は戦後は日本の中華系移民の中では一大勢力でしたが、最近は新しく移住してくる大陸系中国人に押され影響力を失いつつあります。
各種中国語の違い
不夜城にはいろいろな中国人が出てきます。不夜城に登場する台湾人たちは身内では台湾語を話し、よそ者には中国語で対応します。劉健一は楊偉民から台湾語を教えてもらえず、さらに彼は身内に対して、劉健一に台湾語を教えるなと釘を刺していました。
中国人は自分の仲間、或いは同郷出身の身内とそれ以外の人間を区別するという現実がこの小説ではよく描かれています。ちなみにこれは不夜城に出てくる上海人も同じです。身内には上海語で、それ以外には中国語を使います。
北京人はきれいな北京語を話し、台湾人や福建人のような南方人は巻き舌発音を一切無視した喋り方をすることも不夜城では描かれています。これも事実です。
出身地による仲間意識
不夜城では、中国人というくくりよりも北京人、上海人、台湾人、香港人等出身地による仲間意識が強調されています。一般的な日本人には強調されていると思われる内容ですが、外国にいる中国人の当事者にとっては普通の感覚です。とくに、外地(よその土地)にいる場合の同郷意識は特に強くなる傾向があります。
日本人は中国料理のことを「中華料理」と一くくりにしますが、中国人は中華料理を「中国菜」として一くくりにすることは稀です。「川菜」「北京菜」「浙江菜」「上海菜」等で区別します。それと同じように中国人同士では、自分の出身地を意識することが多いです。
中国人の習慣
不夜城では、物語の中で中国人の習慣が描かれています。神棚の前で線香を上げる場面、また福建人がまだ寒くないのにコートを着ていること等各地の中国人の違いも描かれています。六合彩くじという宝くじに熱中する姿、映画版の不夜城では、家族で食事したりする姿が描かれており、中国人の生活習慣を少しだけ垣間見ることができます。
中国人と台湾人の違い
不夜城自体にはあまり詳細に書かれていませんが、物語の中で東京をテリトリーにする中国人グループがいくつかあることが示唆されています。
どこどこは〇〇の縄張りであるとかです。今では大陸出身者の数が多くなっているので台湾系中国人の影響力は日増しに少なくなりつつありますがそれでも日本に根差したビジネスを行っている古株の台湾人はいまでもいます。
本省人と外省人の区別は描かれてはいない
不夜城に登場する台湾人は、いわゆる台湾語を話す台湾人です。1949年に蒋介石率いる国民政府とともに台湾に移住した外省人については詳しく触れられていません。
現代の日本の中華社会とのかい離
不夜城は日本の中華社会を知るうえでとても良い小説ですが、発行から20年以上が経過しているためすでに現在の中華社会とのかい離が発生しており注意が必要です。現在東京のリアルチャイナタウンと言えば、池袋北口です。また西川口にも中国人がたくさん住む団地があります。
不夜城では池袋は福建グループの縄張りとありますが、今はおそらく東北人の縄張りとなっていると思います。不夜城の第一話では東北人は登場しません。ですが「長恨歌―不夜城 完結編」では主人公は東北出身者となっています。
現在の在日中国人の主役は、東北三省の出身者です。都会の繁華街で聞こえる中国語は東北訛りばかりです。
まとめ
本日は馳星周の小説「不夜城」を紹介しました。
もし中国文化と中国人の価値観や行動様式についてより深い理解を得たいと思った方は、是非「不夜城」を読んでください。そしてこの不夜城シリーズ3部作を読み終えた足で、歌舞伎町、池袋北口、西川口を歩いてみてください。
不夜城は、後に発売されている「鎮魂歌―不夜城II」と「長恨歌―不夜城 完結編」とセットで読んでいただくと更に理解が深まります。おすすめです。