中国武術

中国武術上達のコツ ~式から勢へ~

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皆さんは、中国武術の拳譜や招式名称を見て、同じような動作でも例えば、起式と起勢のように、式と勢が使われていることにお気づきでしょうか。

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混同されてあまり違いが内容に見える式と勢ですが、実は中国武術の概念において式と勢には大きな差異があります。

本日は式と勢を理解し、勢を練る重要性について解説します。

式と勢

中国の風景中国の風景

ここではまず式と勢について説明します。

式とは字の如く形式の式です。外形の形式を現したものであり、姿勢などと同じく固定し且つ静止した状態をたとえたものです。ここには内面から吐き出される気迫やオーラ等の表現は何もありません。ただただその外形を慎ましやかに現したものにすぎません。英語で言うと、「style」や「form」が式に当てはまります。

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勢とは外形のみならず外形の中からあふれ出るもの、つまり日本語で言うところの「迫力」です。

これは武術の姿勢に限らず人間が彫った彫刻である羅漢仁王像や刀匠が打った刀、茶碗にも「豪快な」、「気品溢れる」、「繊細な」、「豪壮な」、「優美な」、「雅な」、「猛々しい」といった形以外の形容がなされることがあります。武術で言う「勢」とはこれらに当たるものです。

形骸化してしまった単なる姿勢はただの形にすぎませんが、魂がこもったものには中国人は「勢」を見出します。形からあふれ出る迫力、オーラ、そのようなものを「勢」と言います。

式と勢の発音

中国の風景中国の風景

現代の標準的な中国語での式の発音は「Shi」、勢の発音はというと「Shi」です。イントネーションも完全に同じ。つまり式と勢は音声上では全く区別がありません。聞いただけでは全く区別できないということです。

式と勢の違い

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ここでは式と勢の違いについて起式と起勢を例にしてもう少し詳しく説明します。

套路の始めに置かれる動作「起式」は套路の名称によっては「起勢」と書いてあるものもあります。これは套路を編集し名称を確定した武術家の念の入れようの違いが式と勢の違いなっていると言えます。

また「式」と書いてある動作でもその動作に魂を入れればそれは「勢」になりますし、逆に「勢」と書かれている招式名でも全く中身がなく、ただ形の猿真似をしてるだけではそれはただの「式」でしかありません。

式と勢については、打つ本人には自覚がない場合がほとんどだと思います。特に初級者の場合は動作のほとんどが「式」に終始します。また、「式」と「勢」の違いを発見または人から教えてもらい意識したとしても、それは用法の意味合いが入ってるかどうか、位の意味合いで理解している様では全く不十分です。

また「勢」とは「気迫」であると早合点して、眉間にしわを寄せたり、険し顔をしたり、粗野な大声を出したり、力任せに打ったり、自分が制御しきれないほどのスピードで動作を繰り出してもそれは勢ではありません。

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「勢」とは何かということがなかなか理解できないのは、中華文明の見識が浅いことが殆どの原因だと思いますが、もし「勢」を「殺気」と勘違いするようなことがあれば、本当にやりようもなく困ってしまいます。

初級者が形式を作ることに終始するのは仕方ないことですし、外家拳の場合は形を覚えてそこからそれを基礎として広がっているものであることから問題ないと思います。

ただし、既に5年以上武術を練り、或いは学生に指導をしている立場でこの「式(Shi)」と「勢(Shi)」を具体的な定義と意味合いと、動作の風格として認識できないのであればそれは問題です。

式と勢以外の「歩」と言う概念

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中国武術には式と勢以外に「歩」という概念もあります。例えば、馬式、馬勢に加えて馬歩と言い方をしますね。式と歩の違いは、ステップワークの概念が含まれるかどうかです。馬式は馬にまたがるような形を指しますが、馬歩には馬式の状態で移動する概念が追加されます。

まとめ

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今回は、式と勢について解説しました。

式と勢は発音が完全に同一のため口伝のみで伝承された場合、区別はされません。だからこそ、式と勢においてどちらをイメージするのかが非常に重要です。拳譜上はすべて式でも構いませんが中国武術の形に性根を入れるという意味で、式を「勢」にすることを意識してみてください。

套路の現地の老師や師兄と比べて「あれ?何か違うな?」と思ったり、「これは老師のお手本をなぞってポーズつけたり振り付けを真似してるだけだ」と思ったら「勢」という概念を考えてみてください。

日本刀を鑑賞する際には、反りの形からくる迫力、波紋の匂い、冴え等切れ味だけではない鑑賞ポイントがあるのと同様に中国武術にも多くの味わい方があります。

中国武術の形に味わいが加わること、これを意識して体現できると、自分が表現する姿勢(姿勢=すがたの勢)や套路に迫力や表現力が出て、あなたの評価は数段上がるはずです。

中国武術は無形の藝術と言われますが、これをポーズと過渡式の羅列だけではない意味合い、味わい、風格、意味合いを出すことをイメージしてみてください。そしてその「味道」を味わってください。

中国人の老師はあなたがどれだけ套路を習ったか、用法を知っているかにはあまり関心を持っていません。ただ、あなたの「属性」と「気」と「勢」を見ているだけです。そしてその属性と気と勢はあなた次第で上げることができる要素です。

本日のブログが皆様の中国武術研鑽の参考になれば幸いです。

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