中国武術

中国武術上達のコツ ~運動障害は正しい動作でも起こる~

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正しいフォーム、正しい動作、規格通りの動きをしていれば運動障害や怪我は起きるはずがない、そのようなことを聞いたことはないでしょうか。

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実はそれは嘘です。スポーツ全般として、そして中国武術においても要訣を守り、正しい姿勢と正確な動作を行っても運動障害は起こり得ます。

今回は中国武術の練習において、正しい動作でも運動傷害が起こること、中国武術の練習における傷害の防止法と傷害を防止しながら技術向上を行う方法などについて解説します。

運動障害とは

スポーツ障害スポーツ障害

運動障害とはスポーツによって起こる関節や靭帯、筋肉、腱、骨格等の障害や外傷の総称です。

代表的なものには疲労骨折、野球肩、野球肘、テニス肘などがあります。多くのスポーツ傷害は練習前の十分なウォーミングアップ、練習直後の十分なクールダウン、ストレッチ、練習と練習の間のインターバルを適切に取る、等の対策により予防が可能です。

運動障害には大きく分けて以下の2種類があります。

スポーツ外傷

スポーツ外傷とは、運動中に外力によって組織が損傷する障害です。例えば捻挫、打撲、骨折や脱臼などがあります。

スポーツ障害

スポーツ障害とは同じ動作を繰り返すことにより負荷が蓄積し痛みを主とした慢性的な症状が発生するものを言います。疲労骨折や筋肉の炎症が代表的なスポーツ障害です。野球では野球肘、野球肩がこれに当たります。

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中国武術の練習でよく起こるスポーツ障害

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ここでは中国武術でよく起こるスポーツ障害やスポーツ外傷を紹介します。

膝の故障

中国武術の練習で最も多いスポーツ障害はおそらく膝の故障です。中国武術の練習人数、練習負荷、年齢、発生件数、発生率をプロットし分析したわけではありませんが感覚として最も多いのは膝の故障であることはほぼ間違いないと思います。

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簡単に言うと「膝が痛い」という症状です。中国武術で膝の故障が多い理由はいくつか考えられます。私が推測する理由は以下の通りです。

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要求する姿勢が低い

中国武術の正しい姿勢、標準的な姿勢の要求は大腿部を水平にすることが基本です。馬式や弓式、虚式を見ていただければわかります。この動作は大腿部の筋肉や膝の細かい腱、股関節の深層筋が発達していない方にとってはかなり負荷が高く、膝にも大きな負担がかかります。

この正しい姿勢、標準的な姿勢を以て膝を故障させてしまう方は結構います。そもそもの姿勢に対する要求が高いことが一つの理由です。

過渡式での負荷が大きい

中国武術は姿勢(静止状態)の要求も厳しいですが、静止状態と静止状態の間に介在する経過動作、つまり過渡式の負荷も相当に大きいのが特徴です。

大腿部を地面と水平の高さで保持したまま、重心移動を行います。これが大腿部や膝関節に大きな負荷をかけます。膝関節は体の中で最も大きな関節の一つであり、大きな負荷に耐えることができます。

二足歩行の人間の体重を支え、歩行、走行、跳躍の衝撃を吸収する機能を持っていますが、膝関節の内部には繊細な靭帯も存在します。その靭帯が耐えられないほどの負荷が長期にわたり連続的にかかると、膝関節であろうと不具合が起こり得ます。

高齢の愛好家が多い

中国武術に膝の故障が多いのは、高齢の愛好家の方が多いのも理由の一つとして考えられます。中国武術、特に太極拳は老若男女が楽しめる生涯型スポーツとして普及していますが、動作や姿勢には下半身に負荷がかかるがあります。

高齢の方は体力に応じて姿勢の高さを調整して練習しますが、それでも膝にはそれなりの負荷がかかります。人間の靭帯の柔軟性は加齢に伴いしなやかさがなくなります。よって炎症を起こす件数が増えます。

いつまでも若々しい動きをしたい、という希望は私も含めて誰もが持つ願望ですが、老化による生理的限界は誰も抗うことができないというのが悲しい現実です。

跳躍技法がある

中国北派武術には二起脚や旋風脚のような跳躍技法があります。跳躍技法で膝の屈伸を全く使用しない動作はないため、跳躍技法をするたびに膝には一定の負荷がかかります。

体調が優れない状態、体が十分に温まっていない状態、練習不足で筋力が落ちている状態、腱や靭帯の柔軟性が不足した状態、栄養失調の状態、炎症を起こした状態、古傷が完治していない状態、骨密度が低下した状態で跳躍技法を行うと膝を故障する確率が上がります。

練習の前、練習中、練習の後には膝関節のケアを十分に行ってください。

外力による損傷

中国武術は中国人が考案した戦闘技術、つまり技撃術でもあります。その解説で動作の要領を説明する際軽く打って見せることもあります。

時には自由な攻防動作を習得するためにライトなスパーリング形式で歩法やタイミングを練る練習も行われます。その際に不注意とタイミングにより膝に強いインパクトが加わることがあり、これが膝の故障の原因になることがあります。つまりこれは外力によるものです。

膝は適度な角度があり、なおかつ外力が前からくる場合には構造的にはそこそこ強いですが、関節の構造上横からかかる大きな外力には耐えられないようにできています。よってこれらの外的要因が膝を痛める原因になります。

十分に練られていれば問題は発生しませんがもともと体が固く関節の可動域が小さい方や、筋肉が十分に発達していない方が、正しい姿勢を行えば、股関節を痛める可能性が高くなります。

また姿勢の要求もそうですが、過渡式での負荷も相当大きいので、こちらにも注意が必要です。問題は姿勢だけではなく過渡式における初動負荷なども考慮する必要があります。

腰の障害

中国武術は膝の障害のほかに腰にも障害を起こすことが多々あります。ウェストを強くねじる動作や、上半身を前傾にしたりする動作がたくさんあるためです。規定通りの動作を行っても体調によっては腰の障害は発生します。

肉離れ

中国武術の練習でよく起こる障害として「肉離れ」があげられます。特に大腿部裏の「ハムストリング」の肉離れが多く発生します。

これは、大腿部に瞬発的に大きな負荷がかかったり、大腿部に、現状の筋力では耐えられない大きな力がかかったときにおこります。通常のスポーツでも、ダッシュのスタート時や、急ストップ、踏切りの瞬間に発生する障害です。

肉離れを起こした瞬間に音がしたり、激痛が走るので肉離れは発生した瞬間にすぐに把握することができます。中国武術の動作は、下半身の筋肉や靭帯に大きな負荷をかけます。

表側の大腿部などの断面積の大きな筋肉には肉離れが起こりにくくても、断面積が小さく、尚且つ大きな負荷を受ける筋肉は肉離れや最悪の場合筋断裂が起こりやすくなります。

特に、跳躍技法、踢腿、仆步穿掌、仆歩から弓歩への過渡式などで障害が発生しやすいです。ストレッチを十分に行ったり、体を十分に温めてから負荷の高い動作を行うなど、運動強度とカリキュラムには十分な配慮が必要です。

肉離れを起こした時にはすぐに練習を中止し、冷却などのアイジングを行い、医療機関に診察に行きましょう。炎症が収まっても可動域と筋力が戻るまでは再発の可能性が高くなりますで、負荷の調整は十分に行ってください。

足首の捻挫

中国武術では足首の捻挫にも注意が必要です。跳躍技法を練習するときの着地に失敗するとこで足首の捻挫が起こります。捻挫で痛みがある場合は練習を中止しましょう。

突き指

中国武術の門派には掌打や貫手(穿掌)を多用する門派もあります。

掌打は接触面積が大きく、力が滑りにくいため効率よく相手に打撃力を伝えられますが、指を損傷する可能性が高いのがデメリットです。当たり所によっては指は突き指したり、関節を痛めたりします。

むち打ちと脳震盪

中国武術では体全体に振動を伴う強い発力動作を行う門派があります。打撃力はすさまじいものですが、よく練られていない体で激しい発力を行えば、むち打ちや脳震盪を負う可能性が高まります。

医療機関にかかるほどのむち打ちや脳震盪ではなくても、強い振動が脳に反復してかつ長期間にわたって伝わることはあまり良いことではありません。

私は親知らずを抜いた時、歯医者で「何かスポーツをされていますか?」と聞かれたことがあります。「つよい瞬発的力を連続して受けるスポーツをしている人は、歯の詰まり具合が尋常ではない」「これは強く歯を食いしばることによって頭の振動を抑えようとしている人の特徴」と言われたことがあります。

ひょっとすると、私は将来、殴られるような練習をしていないのにもかかわらずパンチドランカーになっている可能性があります。

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スポーツ貧血

スポーツ貧血とは、激しい運動、とくに踵で地面を打ち付ける衝撃により赤血球が壊され、ヘモグロビンが溶出することにより起こる貧血です。これは中国武術で「墊歩」という地面を踏み込む動作を行うことにより発生する可能性があります。

骨折やヒビ、歯の折損

これはスポーツ障害ではなく、スポーツ外傷の部類に入りますが、ライトコンタクトのスパーリングでも発生しえます。例えば、鼻骨や眼窩の骨折、歯の折損、肋骨のヒビなどがあります。肋骨のヒビは私は何度か経験しています。肋骨は肘や肩部の打撃をうけると容易に損傷します。

腱や靭帯の炎症や脱臼

関節に極め技を強く行った場合、腱や靭帯の炎症をおこし、脱臼が起こる可能性もあります。練習で極め技を行う際、デモンストレーションをする際には負荷を十分に考慮して行う必要があります。

筋肉痛

筋肉痛も一種のスポーツ障害です。筋繊維が強力な伸長や収縮により部分的に損傷している状態が筋肉痛です。中国武術の場合、姿勢を低く維持することが要求されるため、特に初期段階において、大腿部や臀部に筋肉痛が発生します。軽いものだと後遺症がなく自然に治癒します。

スポーツ障害の予防法

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ここではスポーツ障害の予防法を解説します。一般的な概念ですので興味のない方は読み飛ばしてもらっても構いません。

練習前の十分なウォーミングアップ

中国武術では練習前に十分な時間をかけて「暖身」「拉筋」を行い調子を整えてから徐々に負荷を上げて練習に取り組みます。

集団練習の際も、ウォーミングアップは各自で行うことが多いです。理由はそれぞれの体の調子が違うからです。練習を始める前には十分すぎるほどの時間をとって自分のペースでウォーミングアップをしてください。

運動後のクールダウン

練習前の十分なウォーミングアップも重要ですが、練習後のマッサージやクールダウンもウォーミングアップと同様に重要です。練習後は急に練習を終了するのではなく、徐々に負荷を下げて練習を終了したりしてください。また練習後は酷使した部位を伸ばしたりマッサージするなどのケアを行ってください。

十分な休息と適度なインターバル

スポーツ障害を防ぐためには十分な休息を設けること、練習と練習との間に適度なインターバルを設けることが欠かせません。インターバルを設ける過ぎると、筋肉の超回復期をのがしてしまうことになりますし、技術向上のスピードが遅くなってしまいます。

インターバルは適度な間隔を置くことが望ましいです。有酸素運動程度の運動強度の練習なら毎日行っても問題ありませんが筋肉痛が発生するような運動強度の練習は、一週間に3,4程度にとどめるのが適切です。プロ野球の先発投手は一度登板すると何日かのインターバルを置くようにしていることからもこの重要性はわかります。

適切な運動強度設定

スポーツ障害を避けるには年齢と体力に合った運動強度を設定することが必要です。炎症を起こしてしまうようなオーバートレーニングは避けてください。

スポーツ障害からの復帰と回復期の練習について

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スポーツ障害が起こった場合はまずはスポーツ整形を得意とする専門医を受診しましょう。
そして医師の指示にしたがい適切な処置をしていきましょう。

通常、スポーツ障害は、自発痛が消え、圧痛が消え、運動痛がなくなっても再発しやすい状態はまだ続きます。筋力と柔軟性が十分に戻るまで待ち、徐々に調子を回復させていくことが復帰への最短の道のりです。

回復期の練習では、障害のある部分に負荷がかからない練習をすることで、全力で練習できないフラストレーションを軽減できます。例えば足首を痛めている場合には、上半身の筋力トレーニングを行ったり、戦略や栄養学の学習に充てるなど様々な工夫をすることでモチベーションを維持することは可能です。

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中国武術と運動障害のまとめ

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今回は正しい動作と姿勢でも運動障害は起こるということについて解説しました。「体に変調が出るのは正しい動作を行っていないからだ」とは私は思いません。

正しい動作、規定通りの動作、標準的な動作を行ってても状況、体調、レベル、負荷によって運動障害は起こり得るものであることを認識してください。そして運動障害は工夫によって避けることができるものがあることも認識していただきたいです。

スポーツ障害をいったん起こすと、運動強度を長期的に制限しなければならなくなり、アスリートとしては相当大きなハンディキャップを背負うことになります。自分の限界を知り、自分のペースを守り、栄養を十分に摂取し、スポーツ科学をよく知ることは、怪我や障害を回避したり、被害を最小限にとどめることにつながります。

中国武術を生涯スポーツとして、人生の友として長く楽しむため運動障害について学び、理解を深めて、武術を楽しんでいきましょう。

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