中国武術を練習しているにとって、初めて学んだ武術が中国武術だったと言う方は少数派ではないでしょうか。中国武術は中華民族が作り上げ体系を整理した武術体系であり、中華民族の価値観の上に成立しています。
中国武術を練る際は、日本の武道や西洋の格闘技の練習体系でカリキュラムを組むのではなく、中華文明の価値観に則り練習することが中国武術を深く理解するために重要だと考えます。本日は、日本を含めた外国の価値観を中国武術に押し付けないことについて解説します。
外国人が押し付けがちな流儀
ここでは外国人が中国武術の練習過程に押し付けがちな外国的価値観を解説します。
礼儀作法
老子に挨拶をする、などはどのような文化でもあると思います。ですが、中国武術を練習する際にその練習場所に対して礼をする行為や、正面?に礼をする行為を中国武術に取り入れるのは如何なものかと思います。
中国武術は練習をしようと思った場所が練習場所です。そこには練習場所と練習場所以外の明確な区分はありません。
また腰を折って老師にお辞儀をするような習慣は中国大陸では見たことはありません。こういう内容を中国伝統武術に取り入れると、ネイティブの方が見て違和感を感じると思います。
一斉に練習を始め、一斉に終わる
中国の伝統武術では練習は一斉に始まらず、一斉に終わりません。早く来る先輩もいれば、あとで来る後輩もおり、先に帰る後輩もいれば、あとで帰る先輩もいます。老師は遅れてくる場合もあれば、先に帰る場合もあり、何の連絡もなしに来ない場合もあります。外の練習は雨降りの場合自然にお流れです。
練習に遅刻するな、後輩は先に来ているものであるとか、そのような価値観を押し付ける方はいないとおもいますが、もしいるのであればそれはちょっとちがうということになります。
皆さん好きな時間に自分のペースで練習する、老師に指示されたことを練習し、分からないことがあれば老師に教えを請う。それが中国武術の一般的な練習風景です。
段位
最近では中国武術でも段位という概念を取り入れるところがあるそうです。段位という概念がどのように始まったのかは良く知りませんが、おそらく「段」の「位置」を表すことと、中国武術の程度を表すことには関連性がないように思います。
中華文明で武術の程度を表すのであれば、「状元」や「榜眼」、「探花」等の科挙から借用したような雅な号で表すと思います。段(ステップ)で程度を表すのは、おそらくは日本からの借用物ではと思います。伝統的な中華社会にはない概念です。
上下関係
中国武術の上下関係は、先に入門したものが先輩、あとで入門したものが後輩になります。年齢は関係ありません。また、輩位(系譜で何代目にあたるか)も重要です。日本の暴力団の直参や舎弟と類似したシステムを持っています。入室弟子と一般学生も区別されます。
水分禁止
運動中は水を飲んではいけないという文化があるそうです。理由を調べてみると、昔大陸に出征した人が大陸の生水を自分の故郷の水のようにのんで下痢になったから、喉の渇きを我慢してこそ精神力が鍛えられるからという根性論から来ている説を目にしました。
たばこ禁止
中国武術のカリキュラムは各自練習し、各自休憩します。休憩中はたばこもOK。練習中でもたばこをくわえながら練る人もいます。自由です。但し、くわえたばこで対打するのはちょっとやめておいたほうが良いでしょう。火のついたたばこがジャンパーの中に入ったり、ちょっとアチチってやけどをする可能性があるからです。
練習中はたばこを吸ったり、ガムをかんだりしないのが当たり前というのは外国人の考え方で中国武術の練習には当てはまりません。自分が休憩するときに、たばこを吸いながら先輩の動きを観察するのも別に問題はありません。(室内禁煙の場所は除く)
練習中はおしゃべり禁止
練習はおしゃべり禁止、練習に集中し、無駄口を叩かない、というのを中国武術に勝手に当てはめないでください。練習中の会話は自由です。風通しの良い風土で、自由に意見交換し、技術を高めるためには言葉によるコミュニケーションは必須です。どんどんしゃべってしゃべくりまくって上達しましょう。
まとめ
中国武術を生涯学習として嗜んでおられる皆様、中国武術は中国発祥の、中国独自の芸道です。中華文明の感性と秩序に則り練習し、修練をつむのがもっともしっくりきます。
日本料理ではお茶碗や汁椀を手で持ち上げるからといって、フランスのコース料理を食べる際にお皿を持ち上げる方はいないですよね。これと同じで、中国伝統武術を練習する際には中国伝統の価値観を十分に尊重し、外国の作法を以て中華文明の価値観を歪めていかないようにしなければいけないですね。
中国伝統の文化体系は、中国伝統の価値観を理解し、自分の体に自然に溶け込んでこそ深く理解できるものです。
- 北枕で寝たら縁起が悪い
- 夜に口笛を吹くと怖いものが寄って来る
- 火遊びするとおねしょする
- 彼岸花は持って帰ってはいけない
というようなことを連想するくらいのイメージで中国文化に馴染む努力をすれば、中国武術で表現できる「勢」は中国や中華圏出身の選手に劣らないものになると思います。