中国武術に筋トレは必須ではありません。でも筋トレをした方が技撃性が向上するためやっても問題ありません。実際、中国武術の伝統的訓練法にも筋トレは組み込まれています。
但しやり方によっては筋肉を増強するだけで武術的要素して上達に寄与しないことも
あり得ますので注意が必要です。本日は中国武術と筋トレについてを考察します。
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目次
筋トレとは
筋トレとは正式には筋力トレーニングと言い、筋肉の出力や持久力の向上、筋肥大を目的とした運動の総称です。筋肉が発揮する力は筋肉の断面積と深い相関関係が有るため筋トレ、つまりウェイトトレーニングなどの筋力トレーニングで筋肉の断面積を大きくすれば筋力は増加します。
筋トレには筋肉の長さを変えながら負荷をかけるものや、筋肉の長さを変えず力を発揮させる方法があります。トレーニングのやり方によっては、初動負荷が高い動作、動作途中に同じ強さの負荷がかかり続けるもの、ゴムチューブを引っ張る運動のように引っ張れば引っ張るほど負荷が高まるもの等があります。
筋トレの目的
一般的な筋トレの目的は、上にも記述した通り、筋肉が発揮できる最大値の向上、筋持久力の向上、また筋肉を大きくすること、つまり筋肥大を目的とする方もいます。また体脂肪率を低下させるダイエットのために筋トレを行う方もいます。
中国武術における筋トレに類する動作
中国武術においても筋力を向上させるためのトレーニングが存在します。これらを以下に紹介します。
鉄牛耕地
日本語でいうと腕立て伏せです。掌でおこなうもの、拳でおこなうもの、指をたてるもの、
様々なやり方があります。瞬発力の養成には間接的にしか寄与しませんが、打撃が当たったときの衝撃への耐性を高める効果があります。
站樁功
站樁はそもそもは筋トレではありませんが、ごく初期の筋力を増強する段階においては
站樁の姿勢を筋トレに借用することもできます。練習方法はすこし姿勢を低くすることです。
これで下半身への負荷を高め、中国武術に必要な骨格を支えたり、バランスを整えるための
筋肉群を練ることもできます。ただし站樁はただの筋トレをするため、忍耐力を鍛えるための訓練であるとは認識しないようお願いします。
基本功
腕を回したり、逆立ちをしたり、跳躍したりといった武術基本功は筋力を増強するトレーニングになります。中国武術でおこなういろいろな姿勢や動作から負荷の高いものを選択し、何十回も反復することで武術の動作自体の練習を行いながら筋トレをもすることができます。
砂袋投げ
握力を練る一つの方法として「鉄砂袋を投げて空中で掴む」を繰り返すという方法もあります。一人で練習することでできれば師兄や師弟、武術クラスの学生同士で反復練習をすることもできます。
前腕と手首、掌の筋力トレーニングのみならず、協調性の向上、瞬発的握力の強化が期待でいます。瞬発的な握力を強めることで、擒拿が効果的にかかるようになり、打撃のインパクト強化にも寄与します。
兵器を利用したウェイトトレーニング
中国武術は武器の操法を根本原理としているため、兵器の操作方法がそのまま徒手の動作につながります。よって兵器を練るというカリキュラムは武術を練るうえ必須となりますが、
兵器を練るトレーニングは身体操作を練る以外にも兵器自体を使ったウェイトトレーニングにもなります。
動作に無理が生じたり、形が歪んでしまうほど重い兵器を使うことは有害ですが、少し重めの兵器を使って練習すれば上半身に過重負荷をかけることができます。
兵器を利用した筋力トレーニングはくれぐれも自分が許容できる負荷の範囲にとどめ筋力の向上に合わせて重量を調整してください。そうしなければ腱鞘炎を引き起こしたり、肉離れを起こしたりと、禍根を残すことになりかねません。
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中国武術における筋トレのメリット
中国武術で筋トレを行うメリットは以下の通りです。
耐久力が出て筋疲労を遅らせることができる
中国武術においても筋トレを行うメリットは他のスポーツと変わりません。筋肉に耐久力がでて負荷がかかった状態の筋疲労を遅らせることができます。腰を落として低い姿勢を維持しても足がつらくなるタイミングが遅くなったり、パンチを打って衝撃が肩に連続して加わっても手が持ち上がらなくなるタイミングを遅らせることができます。
打撃を受けた際の耐性高まる
筋トレをすると打撃を受けた際の耐性が高まります。胸筋が腹筋が発達していなければ
強い衝撃を受けた場合に威力が内臓や肋骨まで通ってしまいますが、筋トレをすることで
耐性をあげ、ダメージを和らげることができます。
但し腋の下、喉、顔面など筋肉がない部分については筋トレしても耐性向上効果は見込めません。
筋が太くなることにより体重が重くなり打撃力が高まる
筋トレをすると筋肉が太くなり重くなります。筋肉が太くなれば体重が重くなります。体重が重くなると打撃力が大きくなります。物理的な法則に則っています。ガリガリの男性のラリアットと、プロレスラーの腕で喰らわされるラリアットではどちらが打撃力が強いか想像してみてください。
また筋力が強くなると筋の収縮力が増しますので打撃力がやや上がります。
怪我をしにくくなる
筋トレをして筋繊維が太くなり、許容できる負荷が高まると筋肉を痛めにくくなります。人間の筋肉は許容範囲以上の負荷を受けると肉離れを起こしたり、筋繊維が断裂したりしてしまいますが、筋肉に十分な力があるとこれらの傷害を少なくすることができます。
また筋肉や腱を屈強にすることで骨格への負荷を軽減でき、足首の捻挫、膝や股関節の故障の発生確率を幾分か下げる効果が期待できます。
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筋トレにおける注意点
中国武術に筋トレを採用する際の注意点は以下の通りです。
勁力増強への効果は限定的
筋トレの勁力増強への効果は限定的です。中国武術の勁は概して全身が高度に強調しかつリラックスした状態で放たれるものです。
筋トレをすると筋力がアップするため、結果的に総合的な運動能力は向上しますが、勁力が増強には間接的にしか寄与しないことを覚えておいてください。
打撃の威力が出ない、力の抜けが悪い、それを筋トレで解決しようというアプローチは方向が間違っています。勁力増強にはむしろリラックスする方法を訓練したほうが近道になります。
動作のモーションが遅くなる
筋トレをすると筋肉が太くなりその分腕が重くなります。素手で連続ジャブを高速で繰り出す場合と、ダンベルを握った状態で連続ジャブを高速で繰り出した時、回転の違いを感じた方もおられると思います。それと同じことが筋トレにも起こり得ます。腕が重くなる分初動負荷がかかるということです。
伸ばすと同時に筋肉を収縮させる癖がつく可能性
筋トレをする過程において、四肢を伸ばす動作においても筋肉を収縮させることがどうしても多くなります。
中国武術で「打」をする際に使用する勁はリラックスして緩んだ四肢とイメージ、そして身体操作が高度に協調しあい初めて作用します。
ここで体を伸び伸びと緩めようとするときに、体が縮こまろうとする反応が起こっては、せっかくの「打」の勁がブレーキにより相殺されてしまいます。
筋肉のパワーに頼りがちになる
筋トレをすれば筋力が高まり、パワーが増すため動作がそれに頼った動きになりがちです。
本来、中国武術は人間のあらゆる素材を最大限に活用し、高度で精錬された相互作用と協調性により動作が行われるべきものです。筋肉の重みと太さも重要ですが、それに頼り切ってしまうのは問題です。
筋トレを採用する際の問題の解決方法
上に挙げた筋トレをする際の問題点の解決方法を以下に提言します。
放鬆(ファンソン)と拉筋(ラージン)と筋トレと並行して行う
動作がいまいち伸び伸びとしないと感じる場合には筋トレと並行して放鬆(ファンソン)と拉筋(ラージン)と十分に行ってください。
中国武術の練習カリキュラムには体の各部を深く緩め伸ばす練習内容がふんだんに盛り込まれています。現地で練習したことがある方はご存知だと思いますが、伝統武術の練習では日本人がただの準備運動と感じるような単調なストレッチに十分すぎるほどの時間を注ぎ込みます。
勁について学びよく理解する
筋トレを行いながらその効果を最大限に生かしつつ筋トレのデメリットを生まない方法論としては、中国武術の勁についてよく学び実践するという方法が挙げられます。
勁の概念は門派により異なりますがそれぞれの門派がもつ勁道を開き、勁の概念を正しく理解することにより勁力を強化しつつ強壮な肉体を最大限に生かせる動作が可能になります。
まとめ
本日は中国武術における筋力トレーニングのあり方について解説しました。
同じ体格、同じセンス、同じ技術の2人が戦闘力の優劣を争う時、筋トレをしたかは結果に影響を及ぼします。筋トレはやらないよりやった方がマシです。戦闘技術として中華武芸の中の技撃性という一コマを抽出し追求したい場合は、ぜひやったほうが良いです。
長時間激しいやり取りをこなさなければばらない場合、筋力と持久力をため耐性を高めることはあなたの生命を守ることにも繋がります。ですが中国武術の練習に筋トレは必須のカリキュラムではありません。護身術として備えるだけの場合は過剰な筋肉は不要です。中国武術を練る目的は人それぞれですので、自分の目指す方向性に応じて筋トレを適宜取り入れてみてください。