中国武術上達のコツ　～片手を後ろに置く意味を理解する～

中国武術では、片手を前方、もう一方の片手を後ろに置く動作、姿勢があります。皆さんはこの意味について考えたことはありますでしょうか。片手を後ろに配置することには、いくつかの意味があります。今日はこれについて解説します。

「あいさつができないものに武術をやる資格がない」という資格は誰にもない皆さんは「あいさつからすべてが始まる」、「あいさつがきちんとできないものは〇〇をやる資格はない」と言うことを聞いたことは無いでしょうか。...

片手を後ろに配置する意味

片手を横側や後ろに配置することには以下の意味があります。

相手を引っ張る

相手の腕を引っ張り込み攻撃のベクトルを反らしバランスを狂わせる意味があります。

相手を掴み自分のバランスをとる

打撃を加えることは、相手に対しこちらの重心を預けることになります。この際、こちら側には一瞬にして大きな重心の移動が発生します。人間は2本の足の裏側だけで地面に立っており、本質的には極めて不安定な立ち方をしています。相手を掴み、自分以外との接触点を2か所から3か所に増やすことにより自分のバランスを安定させる意味があります。

攻撃の作用を打ち消す

前方に打撃を打ち出し、拳が対象物に当たると、それの重さに対応した作用が自分にかかってきます。打撃をしないもう一方の手を後ろ、または横側に打ち出すことにより、その作用を少しでも軽減し相殺します。つまり、現代兵器の無反動砲での後方への噴射、と同様の効果をもう一方の手に課すという意味があります。

相手が一人とは限らないことを意識させる

中国武術では、敵は一対一とは限らない、ということが技術の前提となっています。よって敵一人に対して自分の動きが全体的に投入されてしまう寝技はあまり好まれません。套路や単式練習の際、

を意識付けするために、攻撃しないもう一方の手を横、上、後方に置くということが行われます。

武器術によるバランス維持のための動作の名残り

刀、剣を代表とする片手武器を操作すると、体の重心は武器を持つ右側にやや傾きます。それを補い体の均衡をとるために、左手を体の中心からできるだけ大きく離し、バランスを調整する意味合いがあります。

徒手拳術では左右のバランスは保たれるため、これを行う意味合いはあまりありませんが、他の解説でも申し上げている通り、中国伝統武術の中核技術は武器操法に由来しますので、手の位置についても、武器術での名残が見られます。

全空間を把握するため

上ではいろいろと理由を並べましたが、手を後ろに配置する本質はこれです。片手を後ろに配置する目的は、周囲の全空域を把握するためです。

中国武術は一対一に限らない戦闘技術というものの、主要な局面では一対一での戦闘形態を想定します。これに習慣化されすぎると、人間は戦闘空域を前方のみと認識していきます。手を後方に配置する動作は、この傾向を遮断し、あくまでの周囲360度全域を意識するための具体的な施策になります。

これにより、敵味方が入り乱れる白兵戦の乱戦の中でも、周囲全周を把握できるという訓練を脳に行わせます。つまり套路の形は、我々に「掌握全局」（全局面を把握すること）を要求し、これを体現させようとしています。

片手を後ろに置くことのデメリット

一対複数を想定せず、一対一での攻防技術に特化しその状況に対する集中訓練を行う場合、後方への注意は不要となります。全方面への注意は、脳の意識が分散してしまうことにより、前方の敵方へ投射できる資源が少なくなりますので一対一の技術としてはデメリットとなります。

まとめ ～天人合一～

上に記載した一方の手を後方に配置する目的では、実用的な部分について記述を行っていますが、中国人の考える中国武術を練習する最終目的は、「天人合一」つまり森羅万象、宇宙と自分を一体化することにあります。この意識を持つための具体的な方策として、片方の手を後方に配置し、強制的に全局面を把握させることにより、宇宙との一体化を体現するための手段としています。

このあたりを認識しつつ中国武術の練習を行えば、中国武術の理解はより深まり、練習による深い充実感を実感できます。練習による深い充実感は、人生の満足度を向上させ、実生活の充足につながります。中国人はこのように考え、中国武術を生活に取り入れて生きる知恵を持っています。

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