皆さんはしばらく練習をしてなくて久しぶりに練習をしてみたら、以前にはなかった新しい感覚新しい発見を感じたことはありますか?
ウイスキーもワインも漬物や発酵食品は寝かせることで味わいに深みが出ることがありますね。中国武術においても時として一定期間寝かせて熟成させることで味わいや深みが増すことがあります。
今回は中国武術は寝かせて熟成させて、風格や味わいに奥行きを出すという概念についてお話します。
熟成とは
熟成は本来は食品をおいしくするために寝かせることを表す概念です。本来は食品が酵素や微生物の作用により腐敗せず適度に化学反応が起こり、特殊な芳香、うまみが出ることを言います。
味噌、醤油、漬物の風味、色が変化するのは食品に含まれる物質の化学反応によるものです。これにより人間が好む芳香やうまみが生まれます。
冷蔵庫のない時代、人間は食物を乾燥させたり、塩漬けにしたり、様々な方法で食物の保存を試みました。そして試行錯誤の上保存に成功した食べ物を口入れると、保存前にはない風味や歯ごたえ、うまみがあることに気が付きました。
食品における熟成の事例
個々では食品における熟成の事例について紹介します。
味噌
味噌は熟成食品の代表的なもののひとつです。材料や熟成期間によって味わいや風味が大きく異なります。熟成期間が長いものでは2年以上も熟成させるものがあります。その分味わいが濃厚や風味が濃厚になります。
醤油
醤油は味噌と同じく穀物と塩を原料として醸造技術により発行させて生成される液体の調味料のことです。醤油は日本でも中国料理においても使われます。カラメルを加えどろっとした色の濃い老抽、塩が立って色が淡めの生抽があります。香りづけに使われることが多いです。
ウイスキー
ウイスキーは麦汁を発行させそれを蒸留した蒸留液を木製の樽に詰め、数年以上樽でエイジングして熟成させることにより豊かな風味と色を呈する飲み物です。スコッチウイスキーではオーク材の樽が使われます。
梅干し 漬物
梅干しやお漬物も一定期間塩に付け込んで熟成させた味わいを楽しむ食品です。浅漬けのようなさっぱりとした味わいのものから、長期間漬け込んで熟成された深い味わいを楽しむものまで様々です。
梅干しの場合、6月に付け込んで土用干しが終われば食べられるようになります。初めは果物の香りが残るフレッシュで素朴な味わいがありますが1年以上漬け込むことにより味わいに丸みと深みが加わります。
臭豆腐、納豆、チーズ
臭豆腐や納豆、チーズも発酵により本来ただの豆腐、ただの蒸した大豆、凝固した乳に独特のうまみが加わっています。
牛肉
牛肉は寝かせることでタンパク質が分解され、うまみが増すためしばらく冷蔵し寝かせたほうがおいしくなるといわれています。
寝かせることで熟成される概念の例
ここでは寝かせて熟成させることができるもの、概念を解説します。中国武術に直接的、間接的に関係のあるものを羅列しています。
人格と人当たり
人格と人当たり、つまり処世の技術は年齢と経験を重ねるごとに熟成されます。人と世間に揉まれているうちに性格に角が取れ、丸みを帯びまろやかで円満な性格を持つようになります。こうなれば対人関係の衝突が少なくなることから、揉めるリスクが少なくなります。
中国武術においても、いつも対決姿勢を持っている人は知らず知らずのうちに敵対勢力を増やし、勝負に負ければメンツと名声が失われ、勝っても修復不能の傷を負ったり、相手に屈辱と恨み、復讐のリスクという禍根を残します。
人格と人当たりが熟成されれば、「不争の徳」が身に付き、無駄な消耗リスクが減り、円満で充実した交友関係と人生が約束されます。
機会
熟するものは食べ物だけとは限りません。日本語でも「機が熟する」というようにチャンス、タイミング、機会という概念も熟成するものです。
三国志の中でも有名な場面に、劉表のもとに身を寄せていた劉備が、臥竜の丘に草廬をを結んで暮らしていた諸葛亮を訪ねた時の話があります。劉備は在野の学者である諸葛亮を訪ねた際、一度目、二度目も留守、三度目にしてやっと会うことができたという逸話です。
チャンスが到来したときに動けるかどうかは、日ごろの準備が物を言います、日ごろ準備を行っていればチャンスが来てもそれに乗ることができません。また日ごろアンテナを張っていなければチャンスが来たかどうかも分かりません。
チャンスは強引に手元に引きずり込むこともできません。チャンス、つまり機会というものは常日頃の周到なる準備をしている者のところにやってくるものです。
技術
技術は寝かされば熟成される一つの概念です。技術といっても慣れないうちは先人の物まねをするだけであり稚拙なものです。
それが経験と勘によって精錬され、その試行錯誤が標準化されて落とし込まれ規格化されさらに研ぎ澄まされる、その工程を技術の熟成と言い換えることもできるでしょう。
風格
技術は熟成されますが、風格も同じく熟成されます。中国武術の名師の動画を見てみると、若いころ、壮年期、老年期で風格が異なることに気づくことがあります。
人間は若いころは技術は未熟ですが、体力があり身体能力が高く、荒々しくも豪快な風格をみせることがほとんどです。それが壮年期での人間形成や技術の成熟を経て、動作や風格も円熟し、深みのある風格を醸し出し始めます。
老年期になると一種の省略や短絡や効率化が起こり、角が取れた何とも言えない風味が出てきます。同時に技も枯れたものになることが多いです。
中国武術と熟成という概念のまとめ
今回は中国武術と技芸の熟成という概念について解説しました。中国武術の技術と理解の向上は練習量や練習時間を多くとることによってほとんどが解決できます。
もし練習量を多くしてがむしゃらに頑張っても深みが出ない、奥行きが感じられない、そういう風に思うときには一度練習から距離を置いたり、違う方向から武術を考えたり、体を休めたり、違うスポーツをやってみたりして、中国武術を寝かせてみてください(捨ててしまわないでください)
そして一段落した後、また練習を再開してみてください、そうするとこれまでになかった芳醇な香り、旨味が武術からあふれ出すことがあるんです。でもこの熟成は、やりこんだ人にしか現れないものです。はじめから練習を練りこまずには何も出てきません。
まずは手間暇をかけて功を練って練って練りこんで、それでひと段落してみる、そこで出てくるものを感じ取ってみてください。
今回のブログが皆様の武術の醸成の参考になれば幸いです。