中国武術

中国武術上達のコツ ~兵に常勢なし、水に常形なし~

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皆さんは孫子の兵法の虚実編に書かれている「兵に常勢なし、水に常形なし」という部分を知っていますか。これは、戦をする場合には定型の陣形を使うのではなく、水に形がないように常に臨機応変の処置をするべきであるという意味の言葉です。

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兵に常勢なし、ということを念頭におくことは中国武術の練習や作法において非常に重要です。今回は孫子の兵法の中から「兵に常勢なし、水に常形なし」と中国武術の練習への適用について解説します。

孫子とは

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まずは「兵に常勢なし、水に常形なし」の出典となっている孫子について解説します。孫子は、紀元前500年頃の春秋時代の呉の軍略家の孫武が執筆したといわれている兵法書です。

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孫子の成立

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孫武は紀元前500年頃に当時南方の新興国であった呉に仕え、勢力拡大に大きく貢献した人物です。孫子の著者は孫武と言われており、孫子は「孫武が呉が楚を破った際の経験などを整理したもの」という解釈もあるものの、これについては現在でも議論が続いています。

孫子の成立時期は春秋末期説、戦国初期説が有力ですが、兵家を研究する学派が孫武や孫臏が書き上げた兵法を整理し、その後も加筆が加えられて成立したというのが妥当だと考えます。その後孫子は武人が読むべき兵法の書の筆頭に挙げられました。

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孫子の特徴

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ここでは孫子の記述の全般的特徴について解説します。

非好戦的な戦争観

孫子は安易に戦争を起こすことや長期戦を行うことは国力を消耗するために避けるべきだと説いています。「戦わずして人の兵を屈するは善の善なるものなり」として戦わずして勝つことを最上の戦略にあげています。

現実主義

客観的な状況判断により現実を分析し、それに応じた対応をすることを強調しています。それまでの戦争は、天命によって勝敗が決すると考えるのが一般的でした。

情報の重視

孫子はまた情報収集の重要性を説いています。用間篇という項目を使って「間」、つまり間諜の用い方、情報収集の行い方を説いています。

兵に常勢無し、水に常形なし

兵に常勢無し、水に常形なしとは、とは戦争では定まった形式にこだわらずその場の状況に応じた臨機応変な戦い方をするべであるという教えです。

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兵に常勢無しの出典

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兵に常勢無しの出典は「孫子」の虚実篇です。虚実篇ではこれを以下のように記しています。

原文

兵無常勢、水無常形、 能因敵變化而取勝者、謂之神。

書き下し文

兵に常勢無く、水に常形無し。よく敵によりて変化し、しかして価値を取る者、之を神という。

現代語訳

戦争形態には定まった形式は存在しない。それは水に一定の形がないのと同じことである。敵の情勢に応じて適切に変化して勝利を得るものこそ神妙な境地である。

解説

兵に常勢無しということはつまり、規則的で形式的なものは通用しないということを表しています。

既定路線や固定化した法則というものはなく、情勢は常に変化するものであり、そのように刻々と変化し、虚々実々の駆け引きが行われる中を臨機応変、変幻自在に形を変えて対応することこそ重要であると説いています。孫子はこれを定まった形を持たない水に例えています。

中国武術が「兵に常勢無し」から学べること

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中国武術において「兵に常勢無し」から学べることはたくさんあります。それらを以下に解説します。

固定化した練習カリキュラムの弊害

中国武術家が「兵に常勢無し」から学べることがたくさんあります。その一つが、固定化した練習カリキュラムの弊害です。

中国武術は練習場は外なので、練習場所へ出入りする際に頭を下げたりあげたりするような概念はないですし、わざわざみんなそろって老師に挨拶したりもしません。

後輩が後でくる、老師がさきにいなくなる、何も言わずに誰も来ていない、などは普通です。ですから練習外の形式が膠着化することはありませんが、練習カリキュラム自体を固定化してしまうと悪弊が発生します。

これをやった後に、これをやって、そのあとこれをやって終了、というように老師が指導していたものをそのまま模倣することに終始することは進歩と発展、工夫からは到底かけ離れたものです。

実際の現場ではどのようなことは予想できず、戦場に完全に同一の条件と瞬間は二度と現れないのと同じように練習の体調、タイミング、環境で完全に同一の瞬間は二度と訪れません。それを理解して、常勢なし、つまり最適な練習体系には定まった形式は存在しないことを、兵は常勢無し、は我々に教えてくれています。「形式ばった練習は通用しない」ということですね。

套路の形に捕らわれる

兵に常勢無し、つまり実際に人間と人間が対峙する状態、または一対一、複数対複数、フィールドには定まった形式は存在しません。ですからその定まらないことのために、固定化した振付けの羅列を練習しても、そんなには意味はありません。

「先人が残した形が套路として伝承されている、これを我々は大事にして形を変えずに継承する義務がある」という考え自体が、「兵に情勢なし」という考えから外れます。こんなことを考えてる時点で、春秋時代から3000年時代遅れです。

「固定化したをしても実際には役に立たないよ、水のように臨機応変、変幻自在に動くことが大事だよ」ということを、春秋時代の斉や呉のおっさんが発見し、明文化しています。

固定化した考えを持つこと、固定化した練習をすることを中国武術では「死功夫」といいます。「死功夫」とは固定概念に縛られ、融通と応用が利かなくなった使い物にならない功夫のことです。ではなぜ套路を練る門派があるのか、それは套路のなかの振付けを「きっかけ」として練習者にいろいろなことを考えさせるためです。

きっかけに過ぎない套路を、あたかも武術の最終目的は「套路を完璧に模倣する」してしまうととても滑稽です。中国武術で練習する上で大事なことは「臨機応変、変幻自在、千変万化、霊活多変」です。中国人はこれらの概念を当たり前に理解し、練習しています。

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兵に常勢無しから学べる多くの概念

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兵に常勢無しから学べるものは兵法や武術に関するものだけではありません。我々は日常生活や人生においても多くのことを「兵に常勢無し」から学ぶことができます。

スポーツ

サッカーやバスケットボール、ラグビーなどのスポーツでも戦況は刻々と変化するもんですし、虚々実々の駆け引きが要求されます。常に変化する情勢の中で定石にとらわれない臨機応変な意思決定をおこなうチームが勝利を収めることができます。

勉強

学校の勉強でも学科の先生によって出題範囲や出題形式は変わりますね。この先生の出題傾向に合わせて勉強すれば良い点数を取ることができます。勉強でも柔軟な対応というものの重要性は変わりません。

ビジネス

ビジネスにおいても景気、業界動向は刻々と変化します。その中で過去の成功やこれまでの既定概念にとらわれない斬新で豪快な戦略がとれる企業が成功し、変化を受け入れないビジネスモデルと硬直化した体制の企業は衰退してます。

投資

投資においても「兵に常勢無し」の概念は非常に重要です。投資環境は刻々と変化します。刻々と変化する市況状況に対して、形骸化した投資戦略で臨んでは利益獲得機会を失ってしまいます。最悪大きな損失を被る可能性があります。

囲碁、将棋

囲碁や将棋もうち手のパターンは無限ではありませんが人間にとっては天文学的ともいえる選択肢のパターンがあります。相手がどのようなうち手を打ってるのかわからない中では、定石に頼らず、兵には常勢がないということを念頭に置いて臨機応変に対応することが勝利への近道です。

人間関係

人間関係には、「戦わずして勝つ」、「力づくで立ち向かわず、相手を陥れ、こちらが糸を引いていることさえ悟らせない」という定石はあるものの、生き物と生き物の虚々実々の駆け引きの中では、定まったルール、必勝の駆け引きの法則はありません。よってこれも「兵に常勢無し」ということを人しておく必要があるものです。

兵に常勢無しのまとめ

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今回は孫子の虚実篇から「兵に常勢無し」を抽出し解説しました。

夫れ兵の形は水に象る。水の形は高きを避けて下きに趨く。兵の形は実を避けて虚を撃つ、水は地に因りて流れを制し、兵は敵に因りて勝ちを制す。

故に兵に常勢なく、水に常形なし。能く敵に因りて変化して勝を取る者、これを神と謂う。ゆえに五行に常勝なく、四時に常位なく、日に短長あり、月に死生あり。

軍の形は水のようなものである。水は高みを避けて低いところに向かう。兵は実を避けて虚を撃つ。水は地形に沿って流れを定めるが、兵は敵情によって動き勝利を得る。

つまり軍には常の形というものはな、水が常の形を持たないのと同じように、敵情により変化して勝利を得ることこそ神妙ということができる。五常(木・火・土・金・水)、四季や太陽の動き、月の満ち欠けが止まることがない野と同じことである。

つまりは、中国武術の練習カリキュラム、戦術にも定まったものはなく、定型に当てはめてはいけないということです。中国武術は活きものです。活きるものは絶えず変化します。

「兵に常勢なし」を知り練習に努めれば、武術は、臨機応変、変化無窮、千変万化、随心所欲を包括した活きた技になり、どのような場にも適切に対応できる汎用性が備わることでしょう。

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