世界の武術、格闘技には、寝技、関節技、または坐ったところから始まるものもあります。
中国武術は 打(打撃)、踢(蹴り、腿法)、摔(投げ)、拿(関節)がシームレスに結合された技術体系を持ちます。地躺拳や脚技を多用する門派では、地面を転げまわる動作も多く含まれますが、今日の格闘技の分類を借用すると、中国武術は打撃系スタイルに分類されます。

中国武術には関節技はありますが、比重としては決して多い物ではなく、寝技は比較的少ないです。本日はこれについて解説します。
目次
中国武術が打撃主体で関節技比率が多くない理由

中国武術に於いて、関節技比率が多くない理由は、関節を制圧するということは、一人の相手に拘束される時間が長くなるということを示します。伝統武術では、相手は必ずしも一人とは限らないという状況を想定するので、一人に自分が拘束されてしまうことを嫌います。

中国武術は捕縛を目的とはしていないため、逆関節をきめて相手を動けない状態にすることをとりわけ重視しません。(最重視はしませんが、これはこれで使用できるだけの実用性は当然あります。)
関節や穴位(急所)に刺激を与え、意識を瞬間的にそちらに逸らすことにより、相手の門(防衛線)に穴をあけ、打撃の効きをよくするために拿は使われることがあります。よって、中国武術では、拿と打の同時使用などもよく行われます。
「拿」に執着すると、動きと意識が一人に対して拘束されてしまい、霊活な移動が損なわれてしまい、また、意識に死角が増えます。後ろから、トゲトゲの鉄棍棒や、戦斧で後頭部や頸部を思いっきり叩き付けられれば終了です。

拿法は一人に対する間接制圧術、捕縛術としても使えますが、本来の考え方としては、相手の動きをとめ、打や摔へのつなぎとする、関節を脱臼させるなり、へし折るなりして、素早く次の対象物に対処する必要があります。
中国武術に寝技が少ない理由

中国武術で寝技が少ない理由を以下に説明します。
一人の相手に拘束されることを嫌う
中国武術に寝技が少ない理由は上に記述したこととも重複しますが、一人の相手に拘束されることを避けるためです。寝技でモタついている時に、別の人が近づいてきて、トゲトゲのフレイルで頭を潰されてしまってはgame overです。またあまりモタついていると、重装騎兵の乗った馬の蹄に踏まれて蹴散らされてしまう可能性もあるでしょう。

服に土がついて汚れるし不衛生だから
寝技をすると、服に土がついて汚れます。地面にはどんなものが落ちているか分からないですし、地面の凹凸や石、何かの破片で傷ができ、そこから破傷風にかかる可能性もあります。キチャないのがニチャっと着く場合もあります。
寝技が好きな人は、もんじゃ焼きが落ちている土曜日の早朝の饐えた匂いのする歌舞伎町の道端で寝技を試してください。

地面が平坦とは限らず自分が傷を負う可能性がある
地面が水平であり平坦であるという前提は中国武術にはありません。例えば日本の市街地でも砂利の駐車場や凸凹の不整地で寝技をすると傷だらけになります。錆びた釘でも落ちていれば破傷風になる可能性も否定できません。

寝技を使うという発想が中国人には思いつかない
春秋戦国の中国人にとって正式な坐り方は日本の正座と同様の方式でしたが、隋唐の時代には既に椅子に腰かけるスタイルに変わっています。これは飛鳥時代、奈良時代の日本の貴族や官吏の風俗を見ればよくわかります。ですから、跪く習慣もない中国人には、寝技を使うという発想が出てこないのかもしれません。
まとめ

本日は中国武術と関節技、寝技について解説しました。中国武術しか練習をしていない私のような人間が、寝技や関節技を使う様な試合に出場した場合、一発でヤラれるでしょう。
もし中国武術を研究している方で、そのようなスタイルにも興味があれば取り入れるのは一つの方法であると思います。私個人としては、対策を持ち、それをできるようにしておけば、取り急ぎ問題はないのではと思っています。
