中国武術ときいて皆さんはどのようなイメージを想像するでしょうか。カンフー?映画のアクロバット、中国人の戦闘技術の集大成?殺人技術?中国武術は本質である技撃(攻防技術)以外にも様々な概念を内包した一つの概念です。
今回は中国武術の概念について解説します。
中国武術に内包される概念
中国武術に内包される概念はに養、健、強、運、技、美、娯、芸、修のようなものがあります。そしてこれらがシームレスに結合していることが中国武術の特徴です。それではそれぞれの概念を詳しく見ていきましょう。
養
体の養生のことです。中国武術は人との争いの中で自分の身を守る護身術という本質の他、体の調子を整え健康状態を維持するという「養」という部分があります。養とは虚弱体質を通常の健康体質にまで向上させるような方法論をいいます。養生術には伝統医術としての血行促進や経穴のマッサージ、体の新陳代謝の向上、気分の健全性改善なども含まれています。
健
体を壮健にすることです。養生の上位互換と言っていいと思います。体の調子を整え健全な状態を維持するだけはなく、体力や運動能力の向上を図るという考えがこれに当たります。武術の練習を継続的に行うことにより筋力、体力が向上し屈強な体躯が出来上がります。
強
壮健な体を得たのち、強壮な肉体を得ることを言います。健の上位互換です。健康であるというだけはなく、格闘戦や兵士、アスリートとしても通用する高い運動能力が発揮できる状態に持っていくことです。
運
体の運用技術です。武術の運動には高度なバランス感覚や調整能力が必要なため、身体操作能力が向上します。体を動かすことは脳の機能や運動神経に依存していますので運の概念には、身体的な筋力の増強の他に、意識の操作、意念の操作、つまりこれらソフト面の運用能力が含まれます。
技
攻撃や防御、兵器を操作するテクニックです。中国語では攻防技巧と言います。これは中国武術の中心的内容である技撃、護身術にあたります。中国武術の核心は技術であり、そのためには実用性が伴っていなければなりません。中国武術には
- 打(拳や掌、胴体で打つ事)
- 踢(蹴り、足技全般)
- 摔(投げ技全般)
- 拿(禽拿 関節技、極め技)
が結合し、ここにさらにさまざまな武器術が組み合わさります。広義には弓術や暗器の操作方法も武技は含まれます。ですが技は中国武術としては概念の中のただの一つにすぎません。
美
鑑賞価値、つまり、見た目の麗美さの価値です。武術は実用性を持ちながらも、その姿勢、動作、勢には人を魅了する美しさがあります。とくにこれは中華民族が持つ独特の美観として中国武術の動作の端々に影響を及ぼしています。
娯
中国武術は自分の身と自分の大切なものを守るための護身術でありながら、娯楽の要素を秘めています。近代初期までの中国農村の農閑期には武術の練習が大事な娯楽となったことでしょう。現代においても公園で武術を練ること、武術を学ぶことを余暇活動として楽しむ方が絶えないのは、娯楽としての魅力があることを物語っています。
芸
芸術性とは抽象的な概念ですが、表現者、あるいは表現物と鑑賞者が相互に作用しあうことで精神的、感覚的な変動を得ようとする活動です。中国武術は静止状態よりも動作を伴う表現方法ですので、表現者が動作の瞬間瞬間を藝術として表す芸道です。
二度と同じものが生まれない一瞬の一点を作品としてこれを芸術とします。中国武術はまさに自分の体を使って表現する芸術の一種とも言えます。
修
心の修養のことです。知識を広め、品性を磨き、自己の人格形成につとめることです。これには以下の概念が含まれます。
- 人と人との処事(人間関係を円満円滑にすること)
- 相処(人と相容れること)
- 和階(人と衝突せず温和にいくこと)
- 協調(人との協調性をもつこと)
中国人は技撃としての技術の中に、修心、修養という概念を盛り込み、人と人の間の無駄な衝突を避け、誰もが社会規範を守り節度を保つことを理想として掲げています。
まとめ
中国武術は、養、健、強、運、技、美、娯、芸、修が一つの活動の中に結合していることに特徴があります。
中国の老師たちはこれらの概念を自然に人生に取り入れています。これらの概念を認識しなくても武技としての成果は現れますがこれらの意味合いを積極的に認識することで、中国武術オリジナルの感性をより深く認識することができます。
技撃性という一面のみに注目し武術を練るというのは非常にもったいない愉しみ方です。
武技は武器を持った人間同士の攻撃と防御の技術体系ですが、これを武芸、武学と表現することは、技撃以外の要素を盛り込み、ただ下品で野蛮な戦闘技術を学問、芸術に昇華しようとした先人の知恵と工夫の賜物です。
皆さんがこれらを認識して一門の学問として学びこれに励めば、国は収まり、大衆の人生はみな幸福で充実したものとなります。